<蓬川兄弟と潮江>※年齢操作(六年→四年)

 『幸福な王子』という物語がある。庶民の貧困を哀れに思った、全身金箔、双眼は青い宝石で出来た像が、燕に頼んで己の装飾を庶民に分け与える話である。
 正直言って、蓬川兄弟はこの話が好きではない。何が幸せなのか、分からないのだ。

 己に施された装飾の全てを剥がした像は、見窄らしくなってしまったと民衆の手によって溶かされるのに。燕は渡り鳥なのに、像の頼みを聞き入れたが為に渡る事が出来ずに死んでしまうのに。
 庶民に分け与えた装飾だって、実は大した助けにならないかもしれない。盗まれてしまうかもしれないのに。
 何が幸せだと言うのだろう。

 それは、大切な己たちの後輩にも言える事だった。
 どうして文次郎は平気で己を傷付けるのか。あの像のように、痛みがない訳ではあるまいに。あの美しい像の姿を希望にしていた筈の民衆すら裏切って、そこまで身を削る必要がどこにあるというのだろう。
 双子には、まったく分からない話だった。


 ・・・あぁ、でも・・・。と、二人の声が揃う。


 溶かされた像の中には、炎にも溶けなかった鉄の心臓があり、その心臓と燕だけは天国に昇る事が出来たらしい。
 天国なんて、信じている訳ではないけれど・・・。

「「鉄で出来た心臓だけは、ちょっと好きかな・・・。」」

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