<会計六一と用具六一>※年齢操作(六年→一年)

 前略。学園長の思いつきで「委員会別野外演習」が実施され、六年生はハンデとして一年生を背負ってゴールを目指す事になった。道中の邪魔は、勿論黙認される。
「浜 仁ノ助、覚悟ぉ!!」
「・・・今度は用具委員長、か。」
 当然のように目の敵にされる、会計委員会。演習場所は裏裏山の森の中。幾人かの襲撃をくぐり抜けた先で待っていたのは、一年の食満 留三郎を背負った用具委員長だった。
 浜は頭の中で、現在地とゴール地点を思い浮かべる。戦いながら走り抜けるには、まだまだ距離があった。
 少なくとも今は、彼を追い返すなり失格にするなりしなくてはならない。
「仁、先輩っ」
「文次郎、少し暴れる。しっかり捕まっていろ。」
 手裏剣や苦無を弾きながら、仁ノ助は用具委員長とは付かず離れずの距離を取る。手持ちの武器の数に少々不安があったので、近場に刺さった苦無を引き抜いて投げ返した。
 だが、その苦無はキィンと甲高い音をして弾かれる。
「・・・双節鉄棍か。一年生を背負って使う武器ではないな。」
「フン。常日頃から、一年生を池に放り込むお前に言われくねぇな!鬼の会計委員長様よぉ!」
 尊敬する仁ノ助の悪口を言われたようで、潮江 文次郎はぎゅぅ、と手を握り締めた。仁ノ助はそれに気付きながらも、敢えて無視を決め込んだ。
「貴様の相手をする暇はない。」
「そうはいかねぇ!委員会別の演習ってのはそうそうあるもんじゃねぇからなぁ。学園長も酷い事を考えるもんだな。今の時期にんな事をすりゃあ、俺等に会計委員会を潰せって言ってるようなもんなのによぉ!」
 急激に距離を詰め、鉄棍を振るう用具委員長。咄嗟に仁ノ助はそれを躱しながら、文次郎に当たらぬように距離を取る。用具委員長の前にも、数人の襲撃があった為に、体力も集中力も欠けて来ていた。・・・仕方ない、と呟いて、足元に転がる折れた木の枝を拾い上げた。折れた、とは言うが、長さと太さは加工された状と大差ない。
 ひゅん、と枝を回すと、空気をかき乱す音がする。そして、用具委員長の側面から枝を薙いだ。
「うわっ」
「ちぃっ!」
 パァン、と枝と鉄棍がぶつかり合う。薙ぎの標的にされていた留三郎が、小さく悲鳴を上げる。用具委員長は、それに気付いて鉄棍で防いだのだ。
「留三郎を狙うか・・・!何処までも外道な奴・・・!」
「それは一年生を守る事よりも、俺を狙う事を優先させた、貴様の負ったリスクだ・・・!」
「(・・・すごい)」
 文次郎は、仁ノ助が武器を扱う所を初めて見た。五年生の小田 徳ヱ門とは違って、彼の得意武器は話に聞くだけだったのだ。流れるようなしなやかさでいて、一点に集中された薙ぎは鉄棍に負けるとも劣らない。
 けれど、それだけではなかった。仁ノ助の得意武器は、杖術ではない。
「・・・おもしれぇ!俺等が会計委員会を潰せるか、お前が俺等を打ち負かすか、勝負といこうじゃねぇか!」
「出来るものならやってみろ。俺とて、無傷でお前に勝利を味あわせる気はない・・・!」
 ぎらり、と木の枝の先が煌めいた。自然界に打ち捨てられていた木の枝にはある筈のない、刃が仁ノ助の持つ枝の先に付いているのだ。――これが、彼の得意武器。袋鑓。鑓の先端を加工する事で、誰にも気付かれずに持つ事の出来る隠し武器だった。

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