その後は怒涛の勢いで、文次郎は生物委員会から会計委員会へと強制移籍された。
 何の話も聞かされていなかった生物委員会や、一年い組の担当教師たちは当然の如く驚いていたのだが。当人がその気である事、会計委員長の仁ノ助が受け入れる気満々である事を理由に結局は認められてしまった。
 会計委員の徳ヱ門は、仁ノ助によく似た彼を快く受け入れていたし、林蔵は「猫舌の心の友来た!」と内心喜んでいたし、蓬川兄弟に至っては「鉄粉おにぎりを食べてくれた後輩」として格別に可愛がっていた。


「・・・文次郎。正心を貫く事は容易ではない。」
「はい。」
「温い環境に慣れるな。常に己を厳しい場所に置け。油断は怠惰となり、培ったもの、培うべきものを損なわせる。お前の流した涙は意味のあるものだが、その意味を無駄にする行為だけは絶対にするな。己を鍛えろ。高みを目指せ。」
「はいっ!」


 自分の周りには、才能の溢れる生徒が多くいた。彼らの活躍を見る度に、憧れと同時にひどい劣等感を感じていた。
 何も出来ない。言い返せない。打ち負かせない。隣に立つ事すら烏滸がましく感じられた。
 ・・・一緒に学園の門を叩いた、同郷からの幼馴染はいつの間にかいなくなっていた。彼も失望したのだろう。自分があまりにも無力で、愛想を尽かせてしまったのだ。

 孤独に苛まれた。その事で泣いた。
 泣く事で、己が情けなくなって、また泣いた。
 涙が止まらなかった。

 けれど、そんな自分に手を差し伸べる者が現れた。
 厳格な考えの持ち主だった。いつも自分が泣いていると、誰もが「そんな事はない」と慰める。が、それは嘘だと文次郎自身が誰よりも知っていた。だが、彼はそれを否定しなかった。己が弱い事を認めた上で、その心の有り様が尊いものだと、そう告げたのである。

 己の底を認められた気がして、文次郎はとても救われた気分になったのだ。――既に半ば諦めていた、忍術学園にいること、忍者を目指す事を、許された気がして。

 才能で劣っていても構わない。正心を貫く志だけは、誰にも負けないと決意した。
 こんな自分を、彼が必要としてくれているのならば・・・。それだけで、自分は幸福なのだ。

 初めてだった。
 外見でもなく、行動でもなく、己の心を認めた存在など。
 初めてだった。
 潮江 文次郎は、初めて「才能」や「技術」ではなく、「志」に強い憧れを抱いたのだ。

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