蓬川 甲太・乙太兄弟は一年生の頃から問題児っぷりを発揮していた。
 特に委員会活動では、別々に入った保健委員会と生物委員会、二人揃って入った図書委員会の、合計三つの委員会を荒らして回ったという逸話が残っている。薬や餌に鉄粉が紛れ込んだという事件だけならまだ可愛いもので、図書委員会においては持ち出し厳禁の大切な書物を、双子の鉄粉と手垢塗れにされたのだから、溜まったものではない。堅実な予算を組んでいた図書委員会だったが、その時ばかりは本の修繕が間に合わないという事で、「お飾り委員会」こと会計委員会から大量の予算を得、貴重な書物を買い漁る切欠になってしまった。
 双子の成績は、万年最下位という安定の落ち零れっぷり。学園を荒らし回る双子に、教師陣が彼らの退学を考えたのは三年生の前期の頃。時を同じくして、件の双子に関してとある事実が発覚した。

 当時一年生だった潮江 文次郎の証言から、双子が図書室の本を複写した事が判明したのだ。
 曰く、文次郎は宿題の参考にと本を借りるつもりだった。しかし、それは先に善法寺 伊作に借りられており、彼は本を手にする事が出来なかった。その事で落ち込む文次郎に対して、蓬川兄弟はこう告げたのである。

「「その本が読みたいのなら、僕らが書いてあげるよ!」」

 双子は、キョトンと目を丸くする文次郎の目の前で、例の書物を写本してみせた。原本は伊作の手に渡っていたので、その場所にはない。二人は、図書委員会として在籍していた僅かな時間にしか読んでいなかった本を丸暗記していたのである。
 宿題に関しては事無きを得た文次郎であったが、図書の本を写したのは如何なものか。と、同学年だった中在家 長次に相談したのが発覚の始まりだった。(完全な余談だが、先に本を借りた伊作は度重なる不運でその本を修繕不可能にまで破壊してしまい、今ではその写本が図書室に置かれている)

 どうしてこんな事が起こり得たのか、原因は直ぐに判明した。双子が分かれていないのだ。
 双子の生徒を同じ組にはできず、書類上は甲太が「ろ組」。乙太が「は組」となっていた。双子はそんな事を気にも止めずに、どちらかの授業にしか姿を見せなかったのだが。教師が何度連れ戻しても、気がつけば二人揃っている事に、とうとう匙を投げてしまった。当然、組の授業に参加していない生徒を評価する訳にはいかない。二人は落ち零れの評価を受けた。

 けれど、委員会では違う。双子は他の委員会から「厄介者」というレッテルを貼られ、追放にも近い形で『地獄の会計委員会』に入った。委員会活動では学年や組の垣根を超える。双子は誰に咎められる事もなく、二人でいる事が許された。――二人が双子であるからこそ、発揮される力。それは、暗記力だけに留まらなかった。

「え、運動の成績悪いんですか、アイツ等。そりゃあ、座学に対しては微妙だとは思ってましたけど。でも、あの双子。委員長の鍛錬にも最後まで付いて来ますよ?十キロ算盤持って。」――と、語るのは当時四年生だった御園 林蔵。
「委員会活動で、二人には然程困った事はありませんね。帳簿を汚そうとするのはアレですけど・・・。でも、計算なんかは時々、林蔵よりも早く仕上がる時があります。」――と報告したのは五年生だった小田 徳ヱ門。
「・・・よもや、忍術学園の教師ともあろうお方が生徒の素質を見逃していられるとは思ってもいませんでした。」――と、嫌味たらしく告げたのは当時の会計委員長・浜 仁ノ助だった。

 物は試しに、と双子の委員会活動を返上させ、一年以上前に玩具にした持ち出し厳禁の図書を書き出してみろ、と会計委員長を通して指示してみたところ・・・。彼らは、その全てを一字一句間違う事なく書き上げてしまった。己たちの記憶だけで。表紙、目次、挿絵まで、何もかもをそっくりそのまま。その中には、既に購入する事が出来なくなっていた書物や南蛮渡来の診断書が混ざっていたので、図書委員会や保健委員会は嬉しいやら悲しいやら。

 忍術学園としては、由々しき問題である。
 このまま双子を退学させては、図書室の持ち出し現金の書物の知識がそっくりそのまま放出される事になってしまう。退学の話は取り止めになった。双子の頭に無尽蔵に知識が入るというのならば、その知識を扱えるだけの良識を持たせなくてはならないからだ。

 双子が忍者になる、という決意をしたのは、実はその時からだ。それまで、彼らは忍術学園を只の遊び場かのように思っていたらしい。
 考えが変わったのは、双子が件の書物を書き出す間。その書き散らかした写本整理を担当していた文次郎が「これだけの事を覚えているお二人なら、さぞかし凄い忍者になるのでしょうね!」と告げた事が切欠だった。――立派な忍者となった双子を見てみたい。純真無垢な目で、大切な後輩である文次郎がそう告げたこそ、双子は忍者になる事を決めた。学園も、そうなる事で無造作に知識が流出する事が無ければ良いと、それを容認する事となる。

 三年生の中期。漸く双子は忍者としての知識や技術を得るようになる。
 一年生の知識は文次郎と共に、それ以上の知識は委員会の先輩たちから教わって、わずか半年でその遅れを取り戻した。体力は、委員長の鍛錬もあって大した遅れにはならなかった。そればかりか、双子が揃えばペーパーテストでは満点どころか教師に問題のダメ出しをし、野外実習では上級生の罠に対して逆に罠にハメ返し。落ち零れと評された一年生や二年生の頃とは明らかに異なる極端な成績に、とうとう学園は双子を特例と認めてしまった。

 組は違えど長屋は同じ、双子を一つのものとして扱う、と。
 無闇に双子を隔てれば、彼らはたちまちに凡人以下の生徒となってしまう。が、双子を揃えれば、その集中力は遺憾なく発揮され、あらゆるジャンルで生徒の功績を塗り替えた。

 「弄れた天才」――双子の才能に嫉妬し、けれどそれを認めようとはしない同級の六年生たちは、彼らを影でこう呼んでいる。

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