「さぁ!以前、約束したように!皆さんをお手玉にしてあげましょう!」
「おぉー!」
「お願いします!」
「俺は頼んでねー!」

 期待に目を輝かせる小平太。鍛錬の相手にしてくれると喜ぶ文次郎。すっかりトラウマとなって青褪める留三郎。
 少し離れた場所で、徳ヱ門が一年生を三人もお手玉にしているという異様な光景。それを見て、林蔵は絶句してしまった。

「うわぁ、マジでお手玉になっていやがる・・・。」
「なっちゃん、楽しそー。」
「僕らもやって貰おっかー?」
「流石に三年生二人は無理だろ・・・。」

 呆れるように言う林蔵だったが、次の瞬間に思い出す。委員会の鍛錬終わり。徳ヱ門が十キロ算盤を各々持った蓬川兄弟を、三年長屋にまで運んでいた事に。しかも、二人一度に。
 もしかしたら、もしかするかもしれない。と、思ったが、言葉にすると実現してしまう気がしたので。敢えて首を降ってその可能性を打ち消した。

「・・・そう言えば、最近。徳ヱ門先輩って生き生きしてますよね。良いことでもあったんすかね、委員長?」
「どうして俺に訊く。」
「やー、徳ヱ門先輩が一番信頼してるのが委員長でしょう?あ、崇拝でしたっけ?」
「・・・正直な所、徳ヱ門が俺に何を望んでいるのか。俺にも分からん。」
「そっすか?結構、分かり易いもんですよ?」

 さも当然、と言わんばかりの林蔵に、仁ノ助が眉を潜めた。

「委員長が我が道を行くのを、徳ヱ門先輩は何よりも望んでいるんですから。」
「――――。」
「今、忍術学園の中には・・・仁ノ助先輩の隣にいられる生徒はいないかもしれません。でも・・・、貴方の背中を見てる、俺たちは確かにいるんですから。気にせずに突き進んでやって下さいな。」

 ニカリ、と笑って見せる林蔵。仁ノ助は「フン...」と小さく息を吐いて、徳ヱ門が一年生お手玉を披露しているその場から、誰よりも先に立ち去った。

「(――に、しても・・・。徳ヱ門先輩。それは流石に贔屓が過ぎちゃあいませんかね・・・?)」

 いくら武道派で知られているにしても、相手が最下級生の一年生にしても、子供三人を悠然とお手玉にして見せる徳ヱ門。しかし、上級生であれば気付くであろう。徳ヱ門が明らさまに、お手玉にする一年生三人のうち、文次郎に衝撃が最低限しか伝わらないように動いている事を。逆に、留三郎を振り回す手がぞんざいな扱いになっているという事を(中間の小平太は、それでも楽しいのか始終笑顔だった)。
 後に徳ヱ門は、その事に対して「食満君は以前、私の前で会計委員長をケチだの、文次郎を気持ち悪いだのと宣っていましたので。」と、私怨でやっていた事だと自白した。

 小田 徳ヱ門。彼は一見すると、穏やかで影の薄い印象を与えられる。しかし、その実彼は会計委員会委員長を盲信する信者であり、会計委員会に手出しする者には容赦がない。会計一の武道派と知られるているが、その言い方を変えると『最も血の気の多い会計委員』である。




 因みに、徳ヱ門を相手にした留三郎が保健室の常連になってしまった事を怒った用具委員長が、会計室まで直訴した事件が勃発。しかし、さらりと徳ヱ門に流され、逆に己の口の悪さと喧嘩っ早さが後輩に悪影響だと諭される始末。それを聞いていた文次郎に「もう手遅れだって留三郎の同室の伊作が嘆いてましたよ。」と追い打ちをかけられるのは、完全なる余談であり、――保健室で寝込む留三郎が「打倒・小田 徳ヱ門」を志して後に忍術学園一の武闘派と言われるのは、もう少し先の話だった。

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