体育委員会による、会計室襲撃事件から数日後。

「・・・あらら。」

 騒ぎ声がすると思って、不意に覗き込んでみた曲がり角。
 そこで繰り広げられる光景に、徳ヱ門は呆然とする他なかった。

「大体、お前は左右の目の形が違うじゃねーか!気持ち悪い!」
「はぁ?!テメーだって目付き悪いだろうが、一年生の癖に!」

 まるで・・・、否、正真正銘の子供の喧嘩。飛び交う野次も、子供のそれだった。
 ここで喧嘩をしているのが、己の後輩・文次郎と食満 留三郎でなかったら、徳ヱ門は無視を決め込んでその場から離れていたかもしれない。それ程に、幼稚な喧嘩だった。
 五年生の先輩として放っておく事も出来ないので、徳ヱ門は二人の仲裁に入る事にする。

「もしもーし、そこのお二人ー。」
「お前んトコの委員長が予算をくれねーから、ウチの委員会は大変なんだぞ!?」
「何処の委員会も大変だ、バカタレ!自分の所だけ特別扱いしてんじゃねー!」
「おーい、聞こえてますかー?文次郎ー?」
「特別扱いはそっちの方だろ、文次郎?!予算を独り占めしやがって!」
「聞き捨てならんぞ、留三郎!会計委員会の委員長を馬鹿にするつもりか?!」
「ちょっとー?食満君ー?」
「馬鹿にしてねぇよ、ケチだって言ってんだ!」
「十分に悪口じゃねーか!」

 五年生にして影が薄いと言われる小田 徳ヱ門の自分ルール。自分の発言を三回無視した生徒には、“手を出してもいい”。

「ふ・た・り・と・も・は・な・し・を・・・」
「ん?」
「・・・あ。徳先・・・ぱ、い・・・?」
「聞・き・な・さ・いー!!」
「「うわぁ!!」」

 地獄の会計委員会委員長、浜 仁ノ助の右腕を自負する小田 徳ヱ門。人種性別老若男女問わず、誰に対しても敬語で丁寧な対応。長い髪からのふんわりとした雰囲気。それらから、よく徳ヱ門は仁ノ助とは対照的に「穏やかな性格」と言われる。――しかし、彼は忍術学園の上級生であり、五年生でも有名な武道派だ。ただの「穏やかな性格」で終わる筈が、ない。

 二人が、自分たちを覆い被さる影に気が付いた時には、もう遅かった。

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