その日は休日で授業がなかった。「天気もいいし、みんな用事がないのであればバレーをしよう!」と言い出したのは一年ろ組の七松小平太だったと記憶している。
 誰も、それに異を唱えなかった。忍者のたまご、略して忍たまであろうと、自分たちは遊びたい盛りの一年生。この時間を遊びに使って何が悪い。

 いつもの六人全員に訊ねた事ではなかったが、少なくとも一年い組の立花仙蔵はそう思っていた。休日になると平日以上に生活力のなくなる仙蔵を、今日も今日とて朝食を食いはぐれないように起こして着替えさせ、洗顔の為の井戸を経由して食堂に連れて行ってくれた同級生の潮江文次郎も、同じ気持ちだろう、と。

「よぉし、留三郎!アタックだー!」
「おりゃあ! って、そこ退け伊作ー!」
「ぇ、うわあっ!」

 一年は組の食満留三郎のアタックに巻き込まれそうになった同じく一年は組の善法寺伊作。彼は咄嗟にそれを回避、したかと思えばそのままバランスを崩してしまい、隣にいた文次郎を巻き込んでしまった。
 近くにいた一年ろ組の中在家長次が「大丈夫か・・・?」と声を掛けてくる。文次郎を下敷きにしてしまった事で、珍しく地面とぶつかる事のなかった伊作に外傷はなかった。

「ぁー、びっくりしたー。って、大丈夫 文次郎?!巻き込んじゃってごめんね!」
「まったく、伊作に巻き込まれるとはお前も留三郎と同じくらいに巻き込まれ不運だな。」
「おい、そりゃどういう意味だ。仙蔵!」
「だって、いっつも伊作の不運に巻き込まれてるもんな。留三郎は!」
「小平太まで言うか!」
「・・・・・・文次郎?」

 いつものやり取りの間にも、うつ伏せに倒れたままの文次郎からの反応がない。いつもであれば、「何しやがる!?」と言いながら飛び起きるのだが、今回はそれがなかった。
 もしや、痛みで泣き虫が発動してしまったのだろうか?それを見られたくなくて黙っているのだろうか。
 憶測が飛び交う中、そっと伊作が文次郎の頬に触れる、と・・・。

「あっつ!?え、文次郎熱があるよ?!」
「なにぃ?!本当か?!」
「文次郎 貴様、熱があるならあると言え!」
「と、とりあえず保健室!保健委員に連絡をー!」
「お前も保健委員だろうが!」
「長次!文次郎を持ち上げろ!私がおぶって保健室まで行く!」

 緊急事態にバタバタとしてしまったが、何とか仙蔵たちは熱を出した文次郎を保健室まで運ぶ事に成功した。幸いにも保健室には保健委員長がいてくれたので、適切な処置を受けた文次郎は保健室の布団に寝かせられた。
 これで一安心、と肩を撫で下ろす一年生五人。けれど、その隣で保健室の主でもある保健委員長と、傷の手当に来ていたらしい用具委員長が「やっぱり・・・」だの「とうとう来たか・・・」だのと呆れ顔で呟いていた。
 その言葉が耳に入った伊作が、己の先輩へと問いかける。

「先輩、何が“やっぱり”なんですか?」
「潮江文次郎の事さ。彼って会計委員会に入ったんだろう?」

 問われ、頷いたのは文次郎と同じ組の仙蔵だ。文次郎は元々生物委員会に所属していたが、会計委員会委員長直々に会計委員会に誘われたらしい。
 会計委員会。その言葉にげんなり、とした表情で「一年生には馴染みがないかもしれないが・・・」と告げるのは用具委員会の委員長だった。

「会計委員会は通称『地獄の会計委員会』。その委員長である六年生・浜 仁ノ助は自他共に認める鍛錬馬鹿で、事ある毎に会計委員を鍛錬に連れ出してるらしい。」
「会計には二年生の生徒がいないだろう?会計委員長は五年生の頃から、地獄の会計委員会を作った張本人なんだけど・・・。委員会活動のあまりの厳しさに、当時の一年生はみんな逃げちゃったって噂でさ。」
「一年の潮江が池に放り込まれたって話も聞いた事があるな。そんなんだから、いつかはこうして保健室に運ばれるんじゃないかって、上級生の間じゃ噂になってたんだ。」
「倒れた原因としての症状は風邪による発熱だけれど、日々の疲れも入ってるよ。ひとまず、今日一日は絶対安静だ。」


 そんな事を言われていて黙っていられる仙蔵たちではなかった。少なくとも、文次郎をこんな目に遭わせた会計委員会の委員長に対しては、ふつふつと怒りさえ込み上がって来るようだ。
 けれど、相手は忍たま最上級の六年生。一年生五人程度がまとまった所で、痛くも痒くもないのだろう。
 「敵を倒す為には敵を知らなくてはならない」。五人はその教えに則って、調査を開始する事にした。
 目標は当然、地獄の会計委員会である。





元祖・地獄の会計委員会の段


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