<脱いだら凄いよ>※年齢操作(六年→二年)

 その日の、五年の用具委員長代理・風里夏山と二年の用具委員・食満留三郎が委員会活動を終えた時にはとうに陽が暮れていた。留三郎の分の作業が遅れ、本人が終わるまで辞めないと言い張ったからである。半分船を漕ぐ留三郎を促しながら、夏山は学園の風呂場へと向かう。疲れは早い内に流してしまった方が良いと考えたのだ。
 ――だが、その選択を、夏山は次の瞬間に激しく後悔する事になる。

「おー!風林火山!お前たちも風呂か!」
「・・・風里です。アンタ、ちゃんと名前覚える気ないでしょう。」

 六年は組の体育委員長、虎岩春市。夏山は昔から、彼の事が苦手と言えた。

「体育委員会もお風呂ですか。」
「おう!ところで、体育委員会に入る決心はついたか?」
「俺はもう、用具委員長代理ですから。」

 人数を集めようと、事ある毎に勧誘して来る体育委員会。夏山は毎度断っているのだが、『野獣』と称される春市の口癖は「細かい事は気にするな!」――聞く耳を持つ筈がなかった。
 深追いしてはいけない。夏山はそう判断し、風呂に入る準備に取り掛かる。まずは留三郎の制服を脱がせ、自分も脱ぐ。その動きに、体育委員会も当初の目的を思い出し、脱衣に取り掛かった。

「虎岩先輩って、やっぱり凄い筋肉してますね・・・。」
「ははは!日頃の鍛錬の賜物だな!」

 四年の体育委員・秋 耿之介が、春市の体つきについて呟く。その体は確かに逞しく、体育委員会顧問の厚着太逸にも負けないようだ。あまりの迫力に、船を漕ぎかけていた留三郎の目が冴えてしまう。

「すっげぇ・・・!虎岩先輩の筋肉って初めて見た・・・!」
「凄いだろう!留三郎、お前も体育委員会に入ればこんな体になれるぞ!」
「・・・成らんで良いぞ。忍者には不向きな体つきだからな。」

 ここぞ、とばかりに勧誘して来る一年の七松小平太に、夏山は溜息混じりに告げた。
 忍者の理想は中背中肉。体は大き過ぎても小さ過ぎてもいけない、という考えが主流である。春市の逞しい肉体は、服を来た程度では隠れられない。女装姿を想像してみると、・・・確かに気持ち悪かった。

「そうそう。昔はよく、アイツと一緒に先生に怒られたものだ!お前たちは忍者になる気がないのか、とな!」
「・・・威張って言える事じゃないでしょう。」
「風林火山先輩。僻むのは良くないですよ・・・。いくら先輩が筋肉つき難い体だって保健室の新野先生に言われたからって。」
「僻んでねぇよ!てか、お前まで風林火山で定着してんじゃねぇ!」

 耿之介の言葉に、夏山の目が若干涙目になっている事は黙っておこう。と、留三郎は考えていた。
 そんな留三郎の思惑はさておき、夏山と体育委員たちが各々言い合っていると、不意に脱衣所の向こうの戸が開く。このご時世に自動ドアなんてものはなく、自然、浴室の向こうから戸を開けた人間がいるという事になる。

「こんな真夜中に、そんな場所で何やってるんですか。貴方たち。」
「・・・・・・。」
「・・・ぁ、小田、・・・先輩。」

 出て来たのは、六年の会計委員長・小田徳ヱ門だった。浴室から出て来た彼は当然風呂上りな訳だが、・・・一同は、その体付きに愕然としてしまっている。
 小田徳ヱ門。彼の体は、『野獣』と称される虎岩春市と、何ら遜色ない体つきをしていたのだ。

「・・・・・・。」
「――。」
「おや?どうしました?」
「・・・や、小田先輩って・・・そんな体してましたっけ?」
「やれやれ。四五年にもなろうかという貴方たちまでそんな事を言いますか。・・・まぁ、春市ほど肌蹴てはいないとは思いますが。」
「人を露出狂のように言うもんじゃないぞ、徳ヱ門!」

 春市が共に教師に怒られていたのが、どうやら徳ヱ門らしい。そう言えば、と夏山は昔何気なく聞いた同輩の会計委員の言葉を思い出す。虎岩春市と小田徳ヱ門は、今こそ違えど嘗ては長屋を共にした者同志なのだと。
 彼らが最上級生になった今でも徳ヱ門を勧誘するのは、春市と鍛錬を積み重ねる事が出来たのが彼だけだからという、逸話まで残っている。

「なぁ、徳ヱ門!予算をくれ!そして体育委員会に!」
「どちらもお断りします。」
「相変わらず、手厳しいな。」
「ぁ、ぁのっ!小田先輩・・・!今日は、会計委員たちと一緒ではっ、」

 四年にもなって、未だ三病の一つ恐怖心を取りきれない秋 耿之介。そのトラウマとも言える原因になったのが、彼の同輩でもある問題児の双子である。双子は会計委員の為、会計委員長の徳ヱ門の姿を見るなり、耿之介は警戒してしまったのだ。

「いえ、彼らは先に上がらせました。明日は実習があるので、その準備を終えてもう寝ようかと。」
「おぉ!明日が実習だったか!忘れていた!」
「よくそんなんで体育委員長が務まりますね。というか、今日の委員会ではその整備をしていなかったのですか?」
「やったが、六年の実習が明日という事を忘れていたのだ!」
「威張っても偉くなりませんよ。」

 噛み合っているようないないような、そんな会話を繰り広げる異端の六年は組。彼らを遠巻きに見る他学年の生徒たちは、未だ現実離れしていそうなその肉体美に呆然としている他なかった。

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