<矛と盾の在り方>※年齢操作(六年→二年)

 とある異国のとある商人が、こんな売り文句を歌ったそうだ。
 曰く、「この矛は最強の矛。貫けない物などない」――同じ口が更に語る「この盾は最強の盾。全ての攻撃を防ぎきる」。その両方を聞いた客がこう問うた。

「その矛で、その盾を貫いたらどうなるのか?」――と。


* * *



「・・・とまぁ、それが矛盾の起源と言われているお話ですね。」
「それなら、図書室の本で呼んだ事があります。」
「ふふ。文次郎は勤勉家ですね。」

 一年い組の潮江文次郎相手に、五年は組の小田徳ヱ門は手裏剣の研ぎ方を教えていた。徳ヱ門の長屋は武器庫顔負けの量の武器を収納しており、長屋の主たる徳ヱ門は持ち得る全ての武器が得意武器となっている。その為、武器の心得を教師よりも熟知している身近な存在として、文次郎は事ある毎に指導を頼んでいた。
 武器の指導だけではつまらないだろう、という徳ヱ門の判断で、二人はこういう時。何かと世間話をしていたりする。今回の話題は「矛盾について」だった。徳ヱ門が「矛盾の多い五年生」と呼ばれている事が、その発端と言えるだろう。

「さて、それらの武器が謳い文句と同じく何でも貫く矛と何でも防ぐ盾であった場合。ぶつかり合ったら文次郎はどうなると思いますか?」
「え、どうって・・・。あれ、えっと・・・矛と盾がぶつかり合ったら・・・・・・」

 手を止め、夢中で考え始める文次郎。その頑張りは幼さ特有のようにも思い、微笑ましく見える。
 今回は考えさせる事が本題ではない為に、徳ヱ門はあっさりと答えを告げた。

「答えは、これです。」
「え?」

 ダン、と徳ヱ門は木の板に何かを突き立てて、それを文次郎に見せる。よく見れば、それは苦無が突き立てられた木の板で、程々の厚みがあるそれを、苦無が貫いて裏目に先が出っ張っていた。

「矛盾しない矛盾の答えがそれですよ。」
「これですか?え、でも、・・・あれ?」
「苦無は板を貫いて、板は我が身から苦無を防いだ。・・・ほら、矛盾してないでしょう?」

 言われてみれば、その通り。想像していた結果とは少しばかり異なってはいたが、言葉にしてみれば納得してしまう。

「矛の本来の目的は、目の前の障害物を突破する事であり。盾の本来の目的は、使い手を攻撃から防ぐ事。」
「・・・はい。」
「矛と盾は、必ずしも相反するものではありません。何せ、共に戦場にある物ですからね。」
「戦場に・・・」

 文次郎は改めて考える。矛も盾も、確かに戦場で使われるものなのだ。それを考えれば、矛盾しない矛盾も在り方もあるのかもしれない。

「まして、我々は忍者を目指す身。正当な使い方だけを求められている訳ではありません。」

 どれ程卑怯でも、どれ程外道でも。目的を達成しなくては意味がないのだ。

「そういう意味では、忍者の世界そのものが、人道に反する大きな矛盾なのかもしれませんね。」

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