<潮江の回想>

 事務員の小松田秀作から、潮江文次郎に外部からの手紙が届けられた。送り主は卒業以来どうしているか、というか生死すら不明だった、二つ上の双子の先輩に当たる卒業生たちからだった。
 手紙の内容は彼らしいと言うべき、微笑ましい(少なくとも文次郎はそう思ったが、他の者に読ませれば絶句しただろう)もの。それと、学園の近くの山では見ないような草花を乾燥させたものが少量、入っていた。この手紙を女性に渡したら良い顔はされないだろう。だが、文次郎は気にしない。手紙曰く、この草花は薬の材料になるらしい事が書かれていたからだ。

 詳しい薬効は図書室で調べれば解かるだろうか。と文次郎が思っていた矢先。善法寺伊作が、只今不在中の立花仙蔵を訊ねて来た。目的の相手がいない事に落胆した伊作だったが、文次郎が持っていた珍しい薬草に目を輝かせたのだ。学園の近場では見る事のない、自分でも本でしか知らない薬草だから、是非に譲ってくれ、と懇願される文次郎だったが。特別に思い入れがあった訳ではなく、寧ろ保健委員長でもある彼が使った方が有用になるだろう、と判断し、素直にその薬草を譲り渡した。それ程に貴重なものかも分かっていなかった文次郎は、伊作の飛び付き具合に、正直、引いていたりする。

 無駄足を踏まずに済んだ、と思い直す事にして。文次郎は再び、届けられた手紙に思いを馳せる事にした。
 一年生の頃。萌黄色の二つ衣にやたらと懐かれ(年の近い上級生にあそこまで懐かれたのは初めてだった)、艶やかな紫色の衣には女装の根本的なものと在り方を学び(その後の“思い出”については色んな意味で忘れたい)、深みを持つ紺色の衣には、高みを崇める同士として己の高め方を教わり(彼の教えがなければ、自分はこれ程鍛錬に励めなかっただろう)、深緑の衣には只々憧れるだけだった。

 あれから五年の月日が流れ。文次郎は深緑の衣に身を包んでいる。他の色にはこれまでに一通り、袖を通した。これが最後の色と思うと、早かったような、長かったような、何とも不思議な感覚になる。
 初めて知る色を着こなしていた彼らは既に卒業してしまった。文次郎は、今でも彼らに追いつけているとは思わない。けれど、少しでも近付く事が出来ていればいい。と、考えていた。

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