<用具委員会と体育委員会>※年齢操作(六年→一年)

「元凶を絶つぞ!」
「・・・はい?」

 用具委員たちの前でそう宣言しているのは、六年の用具委員長・三枝 久右衛門だった。あまりにも唐突だった為に、一年の食満留三郎はその鋭くなりがちな目を丸くさせてしまう。
 そんな留三郎を筆頭に、呆然としてしまう用具委員会の下級生たち。彼らを傍目に、やや呆れた様子で委員長に物申す生徒が一人いた。

「何のことですか、委員長。」
「この用具委員会の最近の活動が、どうにも偏っていると思わないか?」
「そう言えば・・・・・・」

 ここ最近の用具委員会の活動。何をしていただろうか、と留三郎は考えを巡らせる。記憶に新しいのは、学園の競合地域に作られた無数の塹壕を埋め直した事。その前は、何故か保健室の前に出来た複数の蛸壺を片付けた(保健委員救出が同時に行われたのは言うまでもない)。更に前は・・・・・・、と考えて気付く。

「ずっと、塹壕やら蛸壺やらの後片付け・・・・・・。」
「そうだ!そればかりが中心で、他の作業がおざなりになりつつあるのではないか!と、用具委員会に苦情が入った!」

 「苦情が入った」と言う久右衛門であるが、正確には「徳先輩の手裏剣の方が綺麗に研いでる気がする」「徳…?委員会の先輩か?」「そう。たまに、手裏剣の手入れとか見せて貰ってるんだ。」という、一年い組の会話を小耳に挟んだのである。

「トラブルの多い学園では誤解されがちだが、用具委員会は修繕の為だけに有る訳じゃない!生徒が授業で扱う道具の管理も我々の仕事だ!それをおざなりにしている噂など、あってはならない!」

 意気込む委員長に、「はい!」と頷く留三郎他下級生たち。委員長に物申した四年生・風里かざさと 夏山かざんだけは、肩をすくめるように溜息を吐いていた。久右衛門は元々熱くなりがちな六年生で、その粗暴さが主に言葉として出る。こうなっては止められないだろう、と夏山は諦めるしかない。

「最近、どうにも塹壕や蛸壺の被害が多いのは体育委員会だという話が出ている。ここは後手に回って修補にかかるよりも、先に元凶を絶つべきだ!」
「その通りです!」
「良い返事だ、留三郎!良し、お前は俺に同行して体育委員会に行くぞ!」
「はい!」
「風里。お前は二年生と一緒に普段通りの業務を頼む。」
「宜しくお願いします、風林火山先輩!」
「風里だ!か・ざ・さ・と!」

 用具委員会所属の四年生・風里 夏山。音読みすると「ふうり かざん」となる為、「風林火山」という渾名で呼ばれる彼であるが、実際の読み方は「かざさと かざん」である。



* * *



 体育委員会の活動は基本的に野外で行う。その為、留三郎と久右衛門が裏山で体育委員会と鉢合った時、彼らは全身泥だらけの姿だった。

「おぉ!三枝先輩!とうとう体育委員長になりに来てくれだんですか?!」
「違う!お前な、出会い頭にそうして勧誘するの止めろよ。」
「おー!留三郎!体育委員会に、」
「入らねぇよ!」

 今期の委員会の中で、最も人数が少ないのが体育委員会である。その為、五年生の体育委員長代理・虎岩 春市と、一年生の七松 小平太は事ある毎に勧誘して来るのだ。因みに、体育委員会の現在の人数は彼らを含めて三名である。

「先輩と一年生が駄目でも、せめて四年の風林夏山とか!」
「モノ扱いしてんじゃねぇよ。てか、風林火山じゃなくて風里 夏山だ。」
「後、冬のつく生徒っていませんか?!」
「・・・小平太。委員会で春夏秋冬揃える気かよ・・・。」

「ぁ、あの・・・!それで・・・・・・何か御用ですか・・・?」

 おどおどとした様子で、割って入ってくるのはもう一人の体育委員・三年生のあき 耿之介こうのすけだ。彼こそが、春市の体育委員勧誘(物理)を受けた、唯一の生徒である。暗く、ネガティブ思考が目立つ彼というのが、留三郎の第一印象だ。

「そうだ、体育委員会!お前ら、所構わずどこにでも穴掘るの止めろ!片付けが用具こっちに回ってくるんだよ!」
「穴?」

 首を傾げる小平太に惚けていると思ったのか、留三郎が答える。

「塹壕とか、蛸壺の事だよ。色んな所で掘ってるんだろ?この前なんて、保健室の前にあって伊作とか大変だったんだぞ。」
「そうは言うがな、留三郎!私たちは穴掘りなんてしてないぞ?」

 体育委員会、まさかの抗議。最近の塹壕やら蛸壺は体育委員会の仕業とばかり思っていた用具委員会は、流石に面食らってしまう。

「は?じゃあ、毎日のように出来上がってる穴はお前達じゃないのか?」
「だって、地面の中より砲弾バレーの方が楽しいですよ?」
「三年と一年相手に何やってんだ、お前は!」

 最近になって、用具委員会管理の砲弾がやたらと紛失率が高いのも体育委員会かれらの所為らしい。いや、それよりも「砲弾バレー」という名称だけで、それがどんなに恐ろしい事か分かってしまう。

「凄いんだぞ、虎岩先輩の砲弾バレーは!あの剛速球スパイクは私も習いたい!」
「砲弾でバレーなんかしたら、お前の手首がイカレちまうだろうが!・・・てか、剛速球スパイクって何だよ。」

 野球かバレーかハッキリしない。留三郎がそう呆れた時だった。

「あの、三枝先輩・・・。塹壕って・・・競合地域の、ですか・・・?」
「ん?あぁ、やたらと掘られてて。他の生徒が使う場所がなくなってるって苦情が来たんだよ。」

 競合地域とは、学園の生徒が罠の設置をしても良いとされる場所。学園の大半はこの競合地域となるのだが、その範囲は広い。それなのに、殆どが塹壕という名の虫食い状態になってしまったのだ。故に、用具委員会はこれを複数犯・体育委員会の仕業と考えていたのだが・・・。

「・・・それ、僕です。」
「・・・へ?」
「だから・・・、その塹壕を掘ったの・・・僕です。保健室の前も・・・」

 爆弾発言とは、この事だろうか。
 耿之介の思わぬ告白に、その場が一瞬にして静まり返った。そして、一瞬の内に一年生二人の驚きの声が響く。それもその筈。保健委員が不運を背負っているのと同じように、秋 耿之介という生徒は不憫を背負っていると言われているのだから。
 「野獣」と称される体育委員長代理の春市と、彼の奔放さを受け継ぎつつある小平太に翻弄され、大きな歯車二つに挟まれる小さな歯車のような不憫さの彼は、絵に描いたようなネガティブ思考である事も有名だった。
 委員長代理と、一年生の暴挙の裏で、事ある毎に頭を下げているのは彼である。

 久右衛門が理由を問い詰めれば、何でも昨今の委員会でのストレスが溜まってしまい。その事で保健教諭の新野先生に訪ねた所、好きな事をすればストレスは堪らないと言われたので、解消も兼ねて塹壕やら蛸壺やらを掘り抜いていたらしい。

 その事に疑問を投げかけたのは、小平太だった。

「でも、秋先輩!委員会の時間には、掘ってませんよね?」
「だ、だから・・・・・・委員会の、後に・・・」
「えぇっ?!」

 小平太程ではないが、他の面々も驚いてしまう。何せ、体育委員会の活動は肉体的にハードな事で有名だ。活動が終わり、風呂に向かう段階で、小平太は半分寝てしまっている事が殆ど。それなのに、それから休みもせず、ネガティブな印象の生徒が一人黙々と穴を掘っている等と、誰が予想出来るだろうか。

 予想外な展開ではあったが、何とか塹壕掘り改め競合地域荒らしの犯人を見つけた用具委員会。春市との相談により、委員会活動において塹壕掘りを入れる事で耿之介のストレスを解消させるようにし、一件落着。・・・・・・と、なる予定だったのだが。

 結局の所、体育委員会が本格的に塹壕掘りに精を出し始めた事により、用具委員会の仕事量が前よりも増えてしまったのは、言うまでもない。

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