<櫻坂と小田>※年齢操作(六年→一年)

 六年い組の櫻坂誠八郎が、五年は組の小田徳ヱ門の事を気にかけたのは一年前の事になる。誠八郎の学年が五年に昇級して直ぐ、誠八郎と同輩で同室の浜仁ノ助が『地獄の会計委員会』を立ち上げた。そんな混乱期に入った委員会の中で、淡々と仁ノ助の補佐をする一つ下の後輩。それが第一印象だったのだが・・・・・・。

 歳も近い筈なのに、それまでの徳ヱ門の事がまるで気にならない。その事を、誠八郎が委員長を勤める生物委員会の後輩であり、徳ヱ門の同輩でもある五年生の梶ケ島友成にそれとなく訊ねてみると・・・・・・。

「あー、小田のヤツですか。そりゃ仕方ないですよ。あいつ、影が薄い事で有名ですし。」
「(影が薄くて有名って・・・、矛盾してないか・・・?)」
「――ま、今の今まで同性に三禁破って懸想してるアンタの耳には、そうでなくても眼中になかったでしょうけどね。」
「うっせぇ!」

 相変わらず、先輩を立てない後輩である。
 ・・・というよりも、誠八郎はその後徳ヱ門と正式に対談する事によって、己は近しい後輩とは縁がないのだと思うようになった。

 仁ノ助に紹介された時から親の敵を見るような目で見られ、敬語なのに何故か刺しかない言い回し、合同演習ともなれば、執拗にその背後を狙われていたのだから。

「おい、仁。何なんだよ、お前の後輩。」
「・・・誰の事だ。」
「あの・・・えぇっと、・・・・・・古田とか言う奴。」
「小田、か?」
「あ。」

 徳ヱ門自身が「影が薄い」と言われているにせよ、名前を忘れるという、六年生にあるまじき失態をしてしまったが為に同輩から睨まれてしまう誠八郎。けれど、本件はそこじゃないと判断したらしい仁ノ助の方が、先を促した。

「小田が何かしたのか。」
「何って程じゃないけど・・・、目の敵にされてるようでな。大した面識もないのに。」
「・・・あれが何を考えているかなど、俺にも分からん。」
「そ、そうなのか。」

 仁ノ助は相手に害意がないと分かると、途端に無頓着になる事がある。彼が「分からない」と言う事は、本当に分からないのだろうし、恐らくはこの先、知りもしないのだろう。
 そして、誠八郎が徳ヱ門の事を理解出来る日も・・・・・・。



* * *



「何で仁ノ助の奴がいねぇんだよ!ここ会計室だろ!」
「あの方は職員室に呼ばれています。六年生にもなって、そんな事も理解できませんか。」
「相変わらず、人の揚げ足取るのがうめぇな。お前・・・」
「忍たまのくせして、取られるような足の揚げ方をする方がいけないんですよ。」

 今日も今日とて、生物委員長と五年の会計委員の仲は宜しくない。普段、誠八郎は意識して徳ヱ門を避けて仁ノ助と接触しているのだが、出会してはこの様子である。

「また、二人が喧嘩してますよ・・・。」
「ウチの委員長。喧嘩こそ売られるけど、殆ど買わないからな。」

 同じ喧嘩なら、小田先輩の方がよく買うんだ。一年の会計委員・潮江文次郎にそう説明するのは、四年の会計委員・御園林蔵である。因みに、人見知りで有名な三年生の双子は来客中という事で仮眠室の方に逃げ込んでしまっていた。それを叱る事が出来る会計委員長は、この場にいない。

「でも、どうして仲良く出来ないんでしょう。あの二人・・・仁先輩の事が好きな筈なのに・・・・・・。」
「そりゃあ・・・好きの種類が違うからじゃないのか。」

 尊敬する二人の先輩がいがみ合っているのが不安で仕方ないらしい文次郎だったが、逆に林蔵は二人が争うのは自然な事だと思っている。彼の実家が実家なので、「あの手」の感情には事欠かない。

「好きの、種類・・・?」
「文次郎にゃ、ちと早いかもな。でも、あの二人って、似てるようで違うだろ。逆に、違うようでそっくりだ。」

 それさえ分かってれば、いいんだよ。と、林蔵はそれ以上の事を教えてはくれなかった。それが意地悪でない事を直ぐに悟った文次郎は、それに頷くだけに留まる。
 恋慕と尊敬。生物使いと武器使い。似て非なる彼らの、実に複雑な感情を、文次郎が具体的に知るようになるのは・・・・・・もう少し、先の話。

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