<小姓先輩は解かる人>※年齢操作(六年→二年)

 それは、二年に昇級した潮江文次郎にとって、ほんの些細な偶然に過ぎなかった。
 たまたま分からない課題があって、明日の提出日に間に合わせようと徹夜をしそうになって、終わった時に寝れば良かったのだが・・・。嫌に目が冴えてしまったので、気晴らしに散歩に出かけていたのだ。

「・・・あまり、そうやって思い詰めない方が・・・」
「(・・・・・・徳先輩?)」

 聞き慣れた先輩の声が、自分ではない誰かと話す声。
 最上級生の六年生ともなれば、夜間を惜しんで鍛錬をする事はよくある事だと聞いていたので、彼が起きている事には何の違和感もない。だが、彼の声がはっきりと聞こえているのにも関わらず、話し相手の声が一向に聞こえて来ないのが気にかかったのだ。

「(誰と話してるんだろうか・・・。)」
「それにしても、聞けば聞く程に貴方たちって不自由なんですねぇ。この世の柵しがらみがない分、もう少し自由だと思っていたのですが・・・」

 何故か、こっそりと除いた物陰の向こう側。
 そこには、文次郎のよく知る小田徳ヱ門の姿しかおらず。確実に誰かと話していたであろう口調と声量だったにも関わらず、そこには彼以外の姿が見当たらなかった。



* * *



 後日。文次郎は徳ヱ門と二人きりになった状態で、それとなく徳ヱ門に問い質した。

「徳先輩・・・実は、この前の夜に・・・」
「あ、見ていたのは文次郎でしたか。」

「(やっぱり分かってたんだ・・・。)」
「先輩も、見えるんですね。」
「見える、なんて大層な事ではありませんよ。「解かる」程度ですから。」
「え、でも・・・あんなにハッキリと・・・」

 文次郎は、あの夜の事を思い出す。徳ヱ門はかなり明確に、それこそ普通の人間と話をしているかのような、自然な振る舞いをしていた。だからこそ、徳ヱ門は己と同じように「見鬼」を持っていると思っての問いかけだったのだが・・・。

「どうにも、彼らとは同調し易いみたいですね。攻撃的な気に触れた事はありません。ま、そっちがその気なら、私も塩を振り撒いてやりますよ。あっはっは。」
「・・・先輩。塩は貴重品です。」

 的外れな返答だったが、徳ヱ門の目は何処か暗さと深さを持っていた。恐らく、問答無用で「やって」しまうのだろう。・・・もしかしたら、霊にも彼の恐ろしさは通用するのかもしれない。

「私には、彼らの気持ちも分かるんです。傍にいるのに、誰にも相手にされない寂しさと恐ろしさ。そして、相手にされたとしても厄介者扱い・・・。」
「先輩・・・。」
「そんな訳で、話し相手くらいにはなってやろうと思ってます。出来る事と言ったら、その程度ですからね。」

 お互いの線を踏み越えない(片方に足はないかもしれないが)。それが、真夜中の対談の条件だった。

「ですから、文次郎。相手にするな、とは言いませんが・・・あまり踏み込まないようにして下さいね。」
「ふみ、こむ・・・?」
「相手の気持ちも分からず無理難題を強いるのは、相手の事を何も思っていないのと同じですからね。文次郎は優しすぎますから、盗賊を家に招いてはいけません。」

 つけ込まれれば、彼らは調子に乗る。相手をする時には、同情で自分の立場を崩してはならないのだ。

「誰が相手でも、ある程度の節度があれば殆どの事は上手くいきますよ。――そうでないと・・・連れて行かれてしまいますからね。」

 何処へ、誰が・・・。
 とは、決して聞く気になれなかった文次郎であった。

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