<蓬川兄弟の食事当番>※年齢操作(六年→三年)

「文次郎ぉおおお!!」
「り、林先輩?!」

 ずどどど、という勢いのままに(あくまでイメージであり、実際の足音は静かなものである)、三年の潮江文次郎の元に駆け寄る六年生・御園林蔵。普段の飄々とした顔はどこへやら、焦りからかやたらと冷や汗をかいているように見えた。

「大変だ!こんな時になって、俺はとんでもない情報を仕入れてしまった!」
「お、落ち着いて下さい。何があったんですか・・・!」
「今夜の夕食当番、あいつらだ。」

 その言葉に、文次郎も何かを悟ったらしく。顔面が青くなる。

「え、ちょ、ちょっと待って下さい・・・!だって、林先輩はこれから・・・!」
「・・・おぅ。六年生はこれから野外実習だ。夕飯には間に合わねぇ。だから・・・!すまん、文次郎!今夜の事はお前に任せた!誰か誘って、あの双子の夕食当番変わってくれ!」

 ぐ、と林蔵は文次郎の両肩を掴んで告げる。傍はたから見れば、何を大袈裟な、と思うかもしれない。が、彼らにとっては他人事ではないのだ。
 五年生になる双子の蓬川甲太と乙太。彼らが食事当番として厨房に立った暁には全ての食事に鉄粉がデコレーションされてしまうのだから。



* * *



「・・・悪いな、三木ヱ門。どうにも他の委員会の奴らには頼めなくてな。」
「いえ、お役に立てて嬉しいです。」

 文次郎が、食事当番の相方として選んだのは、後輩の一年生・田村三木ヱ門だった。学園の食生活に関わる一大事とは言え、実際には内輪揉めでしかないのだから、文次郎が会計委員会以外の生徒に助っ人を頼むのは流石に苦しかった。
 鉄粉塗れの夕食が、仮に学園長の元に運ばれでもしたら。元々良い顔をされなかった『地獄の会計委員会』が廃止、という事にも成り兼ねないのだ。

 実際、三木ヱ門は一度だけあの双子の五年生と会っている。その時の第一印象は、「やたらと鉄粉お握りを勧めて来る(かなり)変わった先輩」だった。三木ヱ門が申し出を断って以来、彼らとは滅多な事では会っていないのだが。小耳に挟むのは悪い噂ばかりなので、機嫌を損ねでもすれば今頃、食堂では阿鼻叫喚が大合唱している頃だろう。

「・・・でも、何だか意外です。あの先輩たちって、委員会活動にも出ないのに・・・。食事当番はやりたがるなんて。」
「最近、薬や忍者食に凝り出してるからな。鉄粉以外にも、色々と食事に入れたがるんだよ。」
「・・・・・・。」

 今更に、三木ヱ門は今自分が行っている食事当番の重要さを思い知る。知らない内に、あの双子の作る薬の実験台にされていたかもしれないのだから。

「だから、済まないな。俺も出来る限りは手伝うから。あの双子が食事当番って聞いたらなるべく変わってやってくれ。」
「お任せ下さい!」

 申し訳無さそうに告げる文次郎に、三木ヱ門はそれを払拭させるようにハキハキとした声で頷いていた。

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