<御園と松平>※年齢操作(六年→三年)、名前変換主人公(名前固定)登場。 潮江文次郎が三年に昇級して程なく。彼は今年から会計委員長飛となった、三つ上の先輩に呼び出されていた。彼の長屋には同室の生徒がいると聞いていたのだが、今回はその姿がない。席を外したのか、それともいない時を狙ったのか。文次郎には判断する術がない。 「文次郎。三禁は拒絶するだけでなく、いざという時に対処しなければならない。それは分かるな?」 「はい。鍛錬ですね!」 何でも鍛錬に繋げたいお年頃なのか、そう意気込む文次郎に、六年生の御園林蔵はこみ上がる笑みを押し殺した。 「だから、俺は実に悲しい・・・。」 「え・・・?」 「一年生の頃から、お前には女装を教えているってのに・・・。もう三年生になるっていうのに・・・、女装で赤点を取りやがってぇ!!」 「な、何で林先輩がその事を・・・」――と言いかけて、潮江文次郎は気付く。 御園林蔵。女装に関する事ならば、女装した山田先生・・・通称“伝子さん”と朝まで語り明かせるという猛者である。他の成績ならまだしも、女装については熱く語り合う二人の事。つい伝子さんが口を滑らせてしまったという可能性は充分あった。 「来年には俺も卒業しちまうから、本腰を入れる事にした。」 「ほ、本腰・・・?」 「今まで、化粧の技術だけを教えてたのが悪かったんだな、うん。済まなかったな、文次郎。今年も一年しかない訳だが、徹底して女らしさというものを教え込んでやる。」 文次郎は直感する。これは、やばい。スイッチが入ってしまっている。 常識人かつ愉快犯な性格の林蔵であるが、当人が得意とする変装・・・特に女装に関しては、先に卒業した先々代の会計委員長・浜仁ノ助に勝るとも劣らない拘りと厳格さを持っているのだ。 「今度の休みから、俺と一緒に俺の実家に行って貰うからな。」 「ご実家、ですか・・・?」 「俺が店の跡取りだって話は前にしたよな。そこに訪れた客は、必ず花を愛でる。」 花を愛でる。 その表現に一瞬首を傾げた文次郎だったが、理解した次の瞬間には顔が赤らんでしまう。 「って、えぇ、まさか・・・!」 「流石に吹聴する話題でもなかったからな。俺の実家は、いわゆる“そーゆー所”だ。――だからこそ、そこでは女が女らしくある事が求められている。」 「で、でもっ」 放り込めば、否が応でも女性とは何たるかを学ぶ事が出来る筈だ。だが、文次郎が頷くには羞恥心が邪魔をしてしまう。だが、林蔵は文次郎の羞恥を堪えさせる方法を知っていた。 「文次郎。恥ずかしがる気持ちも分かる。が、これは誰もが一度は通る道なんだ。忍者の学校なら、尚更にな。」 「そ、そうなのですか・・・!」 嘘だ。が、文次郎は疑う様子を微塵も見せない。ここで、文次郎が目指す「忍者」と、尊敬する「先輩」の名前を出せば、脆い事は知り尽くしている。 「ま、自主的に行くかどうかって差異はあるけど、文次郎。お前が目指してるのは忍者だろう。忍者に不得意があってはならないって、あの先輩が口酸っぱく言ってたよな?」 「うぐ、」 「学んで置いて損はない。こればかりは経験が物を言うからな。今なら俺の実家ってことで、優しくしてやれっから。」 「でも、」 「それとも、何か?お前は俺が卒業でいなくなった後、一人でそういう所に行けるとでも?どうせ、鍛錬だ何だと言い訳連ねて卒業してもご縁の無い場所になっちまうぞー?」 「〜〜〜っ!」 変装術と話術に関しては、店の跡取りという事もあって相応の技量を持っている林蔵。勉強途中の三年生では論破どころか反論も出来ないだろう。 「・・・拒否権、ないんですか。」 「ある訳ないだろ。赤点が満点になるまで、きっちりみっちり仕込んでやるから覚悟しとけよ。」 「・・・・・・。」 「・・・あ、友達と一緒に行きたいっていうんなら誘ってもいいからな〜!」 言える筈がない。と、分かりきっての発言であると、文次郎は知っていた。 「失礼しますっ!」 見覚えのない、というよりは面識のない生徒が上級生の長屋を訪れる事は珍しい。今日は級友の姿がなく、長屋には林蔵ただ一人だった。林蔵は明日の休日に備えた準備をしていたのだが、どうやら中断せざるを得なくなってしまう。 「誰だ?お前。」 「三年は組の、松平伸一郎です。今日はご挨拶に来ました。」 「ご挨拶?」 「文ちゃん・・・潮江文次郎が、花街に行くらしいので。」 「何でお前がその事知ってるんだ?」 「俺は、文ちゃんの幼馴染ですので。」 「幼馴染ぃ?」 そう言えば、文次郎が一年生の頃。幼馴染がどうとかという理由で、文次郎と己の後輩の双子が泣き合っていた事件があったなー、と林蔵は思い出す。直接的に会うのは、これが初めてかもしれない。 「友達と一緒でもいい」と林蔵は確かに言った。だが、文次郎の性格からして言い触らす事はないと思っていた事も事実だ。つまり、この幼馴染は文次郎にとって相応の「心を許せる相手」という事になる。 「文ちゃんの事、宜しくお願いします!」 「・・・へぇ。お前、俺が連れて行こうとしてるのがどういう所か分かってるんだよな?」 「分かってます。ですから、明日は文ちゃんにとって大切な日になると思うので。」 「娘を嫁入りさせる前の親父かよ。そこまで言うんなら、お前も来るか。」 別に構わないぞ、と林蔵は笑う。が、伸一郎は首を横に降った。 「今回はご遠慮しときます。」 「流石に、嫁入り先にまでは押し入れないってか?親父さん?」 「父親じゃないです、幼馴染ですっ!」 「あーはいはい。じゃ、行きたくなったら俺に声をかけてくれ。俺がいる内は、特別料金にしてやるよ。」 休日明け。文次郎は漸く林蔵から解放され、ヘロヘロになって伸一郎の前に姿を現した。その疲労具合は、鍛錬の比ではない。恐らくは心境の問題なのだろう。我武者羅に体を鍛える事よりも、無理矢理に花街へ連れ込まれた事に、ショックを隠し切れないでいる。 「・・・しんどい。あの先輩、人が変わった・・・。」 「(鍛錬好きの文ちゃんに、ここまで言わせるなんて・・・。)――なぁ、今度の休みに甘味処行かねぇか?久々に息抜きしようぜ!」 「そうだな・・・。行こうか・・・。」 普段ならば、こんな話題をしようものなら鍛錬の名の下に相手もしてくれなかった文次郎であるが、その彼が素直に頷いてくれた事に。心の中でガッツポーズを取る伸一郎であった。 <↑のオマケ・その頃の蓬川兄弟> 「「さっちゃん先輩となっちゃん、お出かけするんですかー?」」 「お前らの渾名呼びは一生変わらねぇんだろうなぁ・・・」 「(・・・泣き虫は卒業したのに・・・・・・)」 「「僕らも行きたいでーす。」」 「世の人様に、ちゃんと正面から向き合って会話出来るんだったら連れてってやる。」 「「いってらっしゃーい。」」 「(手の平返した?!)」 「(どんだけ、他人と触れ合うのを拒んでるんだよコイツラは・・・!)」 prev next 戻 gift main mix sub CP TOP |