<浜と松平>※年齢操作(六年→一年)、名前変換主人公(名前固定)登場。

 上級生と下級生を交えての、オリエンテーリング。普段と違う所と言えば下級生が上級生を指名して、そのコンビで挑むというものだろう。そこに、学園長先生が突然の思い付きで付け加えた条件が一つ。――「下級生が選ぶ上級生は、同じ委員会同士にはならないように。」つまり、同じ委員会の先輩後輩でコンビを組むな、という事である。

「俺は今日という日ほど、お前が会計委員会に行って良かったと思った事はないぞ〜!文次郎!」

 一年い組の会計委員・潮江文次郎が指名したのは、六年い組の生物委員長・櫻坂誠八郎だった。文次郎は元々生物委員だったが、そこは教師陣も看過してくれたらしい。文次郎が彼を指名したのは、他の先輩よりも付き合いが長い事が一つ、そして彼が会計委員長・浜仁ノ助の同室だという事が一つ。

「・・・あの、櫻坂先輩。・・・仁先輩は、ちゃんと指名されたのでしょうか・・・。」

 指名されなかった上級生は、それだけで減点対象になると聞いた。学園一の嫌われ者と言われる仁ノ助は、それを自覚して自ら下級生に歩み寄る事が殆どない。明らかに不利になってしまうのではないか、と心配する文次郎を悟ってか、誠八郎はその頭を優しく撫でる。

「心配いらねぇって。委員会に入ってない下級生の奴らもいるし、下級生だって指名しなけりゃ減点されるんだ。誰かしらは選んでるだろうさ。それにな、――どんな状況であれ任務を全うするのが忍者の務め。仁ノ助の奴なら、そう言うんじゃねぇか?」

 励ますように問いかける誠八郎に、文次郎は己を勇気付けようと小さく頷いていた。
 そんな彼に、誠八郎は言えない事が実はある。誠八郎は知っているのだ。嫌われ者と言われている仁ノ助が、己よりも早く下級生に指名された事に。その事で、自分を初めとする同級生や教師陣がとても驚いてしまったという事に。



* * *



 学園一の嫌われ者、と称される仁ノ助を指名したのは、一年は組の生徒だった。正直に言って、仁ノ助はその生徒との面識がない(下級生の殆どに面識がないのだが)。只、その一年生は他の生徒のように一方的に怖がる訳でもなく、怖がり見たさに近付いている訳でもなく、何故か挑発するような視線を仁ノ助に向けていた。

「・・・第三ポイントは通過だ。後はゴール地点まで・・・」
「あ、あのっ!浜先輩!」
「何だ。」
「先輩はっ、会計委員会の委員長なんですよねっ」
「そうだ。」
「俺、潮江文次郎の幼馴染なんです。」
「幼馴染?」

 そんな人物がいただろうか、と考えて。仁ノ助は思い出す。少し前に、同じ委員会の後輩に当たる双子の三年生と、一年生の文次郎がやたらと泣き合っていた事があった。訊ねてみると、双子が文次郎の幼馴染を否定するような言葉を告げたのが原因だったらしい。
 ――その、幼馴染がこの一年生という事だろうか。

「潮江文次郎が・・・文ちゃんが浜先輩を尊敬していると言っていました。だから、どんな人か確かめようと思ったんです!」
「・・・それで、俺に近付いたのか。」
「先輩が、学園一の嫌われ者と言われているのは知っています。でも、文ちゃんはそれでも先輩を尊敬していると言ってました。」

 二つに別れた、浜仁ノ助という人物に対する意見。人伝てでは人物像が見えて来なかった。
 伸一郎にとって、今回のオリエンテーリングは渡りに船だったと言っていい。浜仁ノ助を知るには、絶好の機会だったのだ(教師は仁ノ助が指名された事にえらく驚かれていたが)。

「“実際の浜仁ノ助”はどうだったのだ。」
「・・・俺から見た先輩は、厳しい人です。でも、文ちゃんが尊敬してるって言ってたのが、何となく分かった気がします。」

 仁ノ助を理解する事は、恐らく伸一郎には出来ないだろう。
 けれど、そんな仁ノ助を尊敬すると言っていた潮江文次郎を誰よりも理解しているのは己だと、伸一郎は自負していた。

「先輩が文ちゃんを騙していたら、何が何でも会計委員会を止めさせようとも思いました。でも、そうじゃなかった。文ちゃんは自分の意志で、先輩の教えを守ろうとしてます。」
「・・・。」
「だったら、それでいいです。文ちゃんの事、宜しくお願いします。」
「・・・・・・。」
「でも、覚えてて下さいねっ!文ちゃんの一番は俺ですから!」
「・・・お前は、本当に文次郎の幼馴染なのか?」
「え?」
「俺の考えている幼馴染と、ズレている気がする・・・。」

 どちらかと言えば、娘を取られまいとしている父親のような気もする。という感想は、仁ノ助の口から出る事はなかった。

「誰が何と言おうと、俺達は幼馴染ですっ!」
「・・・後輩の言葉を否定する気はない。」

 双子に幼馴染を否定されて、涙していた文次郎の姿が脳裏に浮かぶ。己の未熟には涙するのに、己の痛みには泣けないあの後輩が、その幼馴染の為に泣いていたのだ。

「お前達が望むのであれば、お前とあれは幼馴染なのだろう。」
「・・・っ!」

 伸一郎は言葉に詰まってしまう。何せ、文次郎と自分が幼馴染であると打ち明けた周囲の反応は、いつも受け入れ難かったのだ。

『い組の潮江と幼馴染なんて嘘だろー。』
『変な見栄張るなって。』

 忍術学園には、言い伝えのような慣例がいくらか存在する。隣り合う学年の生徒は仲が悪いとか、保健委員は決まって不運になる、だとか。同学年のい組とは組の仲は悪い、もその一つ。その言葉にそぐわず、い組の潮江文次郎とは組の食満留三郎がよく喧嘩をしていたのは覚えている。
 だが、それが全ての生徒に当て嵌るかといえばそうではないのだ。少なくとも、自分と文次郎の仲は悪くない。幼馴染なのだから。と、伸一郎は少なからず考えている。

 それが同輩に信じられる事はなかったので、いつしか二人の幼馴染という関係は隠してこそいないものの、周囲に認知されないままになってしまっていた。だから、こうして自らが打ち明ける事が意外に少なかったりする。

 文次郎の尊敬する先輩に、自分たちが幼馴染である事を否定されなかった。その事が、伸一郎にとってはとても喜ばしい事だった。



* * *



「伸君・・・!」
「も、文ちゃん!」
「お疲れ様。なぁ、今日のオリエンテーリング、誰を指名したんだ?」
「え、えぇーっと・・・・・・今日、はじめて会った人・・・!」
「? そんな人を態々?」
「うん、まぁね。」

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