<蓬川兄弟の補修>※年齢操作(六年→一年)

 今日の委員会活動に、とりわけ目に付く同じ制服を来た双子の三年生・蓬川甲太と乙太の姿はなかった。というのも、一年〜三年の前期まで忍術の勉強というものを全く頭に入れていなかった彼らは、圧倒的に不足している出席日数を稼ぐ為に補修を受ける事になったのだ。
 最初こそ乗り気でなかった双子だが、六年生の浜仁ノ助と一年生の潮江文次郎の言葉に渋々と補修を受ける事を決めた。人嫌いで有名なこの双子だが、それでも心の内に出来ているであろう対人関係ヒエラルキーにおいて、仁ノ助と文次郎はそこそこに高い場所にある事が伺える。(余談だが、御園林蔵はそのヒエラルキーで己が一番下にいると思っていたりする。)

 本日は、そんな双子のいない会計委員会。林蔵は相手をしなければならない人物がいなかったという事もあって、いつになく早く帳簿が仕上がってしまった。

「・・・双子がいないだけで、こんな仕事が捗るもんなんすね。」
「林蔵は、彼らに付きっ切りになってしまう事が殆どですからね。」

 乱暴な口調の多い彼ではあるが、そこにはお人好しの一面があるのだ。五年生の小田徳ヱ門や、仁ノ助が見放してしまうような場面でも、林蔵は双子を見捨てきれない。だからこそ双子はより一層、林蔵に懐くのだろうが。

「そういや、文次郎の奴。戻って来ないっすね。」
「厠に行ったっきりですね。」

 用意された文机の一つに、その使い手はいない。徳ヱ門の行ったように、厠に行くと出て行ったっきりに戻って来ないのだ。その為、会計委員会の上級生たちが帳簿を終えてしまっているというのに、文次郎の担当する帳簿だけは計算を終わっていない。
 真面目な性格の彼の事、サボタージュするとは考えられないが。事実、文次郎は会計室に戻って来ていない。

「・・・まさか、」

 思い付いてしまった、とある可能性。同時に、無言で終わらせた帳簿を片付けていた仁ノ助が、天井裏に消える。その光景を目の当たりにした徳ヱ門は思う。あの双子の命運は決まってしまった、と。



* * *



「うぅ・・・。御免なさい、先輩・・・!俺がもっとしっかりしていたら・・・!」
「や。お前は何も悪くねぇぞ、文次郎。三年生にもなって補修なんかして、つまらなくなってお前を巻き込んだアイツ等が悪いから。」

 泣きじゃくる文次郎を抱え込んで、林蔵はそっと背中をさすってやる。林蔵が慰めながら呆れるように向ける視線の先には、腕組しながら仁王立ちして見下ろす仁ノ助と、見下ろされつつ土下座の姿勢を保つ双子の姿があった。
 因みに、徳ヱ門は仁ノ助が済ませずにいる会計室の後片付けを行っていたりする。

 何があったのかを説明すれば、厠から会計室に戻ろうとしていた文次郎を、補修に飽きた双子が拉致にも近い形で自分たちの長屋に強制連行していたのだ。その事に感付いた仁ノ助は双子のいる三年長屋へ急行し、怒涛の勢いで双子を捕獲・文次郎を保護してしまった。
 双子に事情を問えば「なっちゃんを見かけたので、もう終わったのかと思いましたー。」「僕ら寂しかったんですー。」との事。簡潔された絆を持つこの双子が、第三者を求める事は喜ばしい事なのだろう。だが、実際にこれは単なる誘拐である。

「・・・活動中だって事、文次郎は言わなかったのか?」
「い、言いました・・・!でも、放してくれなくて・・・!」

 文次郎がそう告げた瞬間。ずぉ、と悪寒にも似た空気が仁ノ助から滲み出て来る。この空気を伝うものは怒気・・・つまり、仁ノ助は怒っているのだ。怒気を向けられているのは双子の方であるが、此方にも余波がひしひしと伝わって来る。林蔵が駆けつけた時点で文次郎は啜り泣いていたのだが、恐らくはこの怒気に当てられてしまったのだろう。

「・・・文次郎が処理するべき帳簿は終わっていない。お前たちのした事は、会計委員会への妨害行為であると分かっているな。」
「「は、はいっ!」」

 忍術学園の教師にすら己のペースを守り続ける双子が、六年生の怒気に恐れおののき、平伏し続けている。会計委員の中では双子と付き合いの長い林蔵ではあったが、初めて見るレアな光景だった。

 双子の中に存在する、彼らだけの独特の世界観。それは彼らが件名に作り上げた、大切な城なのだろう。だからこそ、無断で入り込もうとする輩は実際の城へ潜入者の如く排除されるし、受け入れられた自分たちは客人として迎え入れられる(迎え方が多少アレであるが)。だが、仁ノ助はそんな双子が二人である事を認めた最初の人間だ。つまり、彼は曲者でもなければ客人でもない。城を作る事を認めた地主にも等しいのであろう。

 人見知りな双子の中にある、対人関係のヒエラルキー。そこにおける浜仁ノ助の存在は、下手をすると頂点・・・彼らの両親よりも高い場所にあるのかもしれない。


 そして補修の終わっていない双子と帳簿が未完成の文次郎は、仁ノ助の徹底された監視の元、各々の仕事を片付ける事になってしまった。

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