<初代組による、初代組紹介>

<浜仁ノ助>紹介者:潮江文次郎(十五)

「地獄の会計委員会――初代組と聞いて、真っ先に思い浮かぶのがこの人だろう。初代組の“初代”とはこの人の事でもあるからな。
 他者にも己にも厳しく、常に三禁と正心を重んじ。鍛錬に明け暮れぬ日はなかったという。基本的に無表情で威厳のある目つきをしていたが、実際には学園やそこの生徒たちを思いやっていた。嘗ては「お飾り委員会」だった会計委員会を「地獄の会計委員会」作り変え、予算を削減した事によって殆どの生徒から嫌悪の目で見られるようになったそうだ。学園の全生徒を敵に回してまでも、学園を守ろうと覚悟なさったのだろうな。俺も彼から三禁・・・ひいては予算の重要さと、正心の有り用を教えて頂いた。一年生の頃には、ヘマをしてよく池に放り投げられたものだが。忍術の才能がない俺が六年生にまでなり、学園一忍者しているとまで言われるようになったのは彼の存在が大きいな。
 ――ん?主観が強い?俺に限らず、初代組があの人を紹介すれば大抵はそうなるだろう。狂信者の徳先輩が語り出したら、一週間はそれで拘束されると覚悟した方がいい。
 無表情に加えて無口でいる事が多かったが、予算などの熱が入る事には饒舌に語っておられた。同じ無口でも、長次のように声は小さくなかったな。
 因みに。俺が学園に入学したばかりの頃、あの人は六年生だったので詳しい事は知らないが。嘗ては火薬委員会に所属していたらしい。あの人の周りは、極端に彼を好くか嫌う人しかいなかったような気がする。」


<小田徳ヱ門>紹介者:蓬川兄弟(十七)

「僕らは、気に入った人たちを渾名呼びするんだけどね。この人の事は「小姓先輩」って呼んでるんだ。」
「小姓っていうのは、身分の高い人の世話をする人って意味があって。小姓先輩はその通り、組頭先輩のお世話をよくしていたよ。」
「あ、組頭先輩っていうのは、小姓先輩の一つ上の先輩の事。僕らが二人でいる事を、はじめて認めてくれたんだ。」
「話が反れてるよ、こーた。でも、小姓先輩を語るのなら、組頭先輩は外せないね。あの人は組頭先輩の狂信者と言われていて、彼に危害を加えるような人を決して許さなかった。」
「組頭先輩の為なら何でも出来る感じでね。かと言って、一から十まで言われないと動かないって訳でもないよ。あの人はあの人なりに、組頭先輩の事を考えて自力で動いてた。」
「元は用具委員だったらしくて、長屋には沢山の武器があったね。武器庫みたいに。何で個人の長屋があんな事になってたんだろうね?」
「さぁ? 小姓先輩って穏やかだけど血の気が荒い性格で、学園にいた頃は「矛盾の多い上級生」なんて言われてた。でも、これってぴったりだと思わない?」
「思うよ。だって、「矛盾」って言葉の通りに「ほこ」と「たて」っていう武器の意味もあるからね。組頭先輩の為なら、小姓先輩は矛にも盾にもなれるって事だから。」
「後はー・・・影が薄い?」
「そーそー。よく、背後から声をかけられて吃驚しちゃうんだよね。だからこそ、隠密向きだって先生たちからは言われてたみたい。」
「それなのに、猪突猛進な所も多いんだ。何せ、組頭先輩の強さを求めて体を鍛え過ぎてしまったって言ってたもの。」
「僕らと一緒で、好きなものは突き詰めてしまうんだろうね。」

「「で、ちゃんと答えたんだから特性薬湯の実験台になってくれるよね?」」


<御園林蔵>紹介者:小田徳ヱ門(十九)

「私の一つ下の後輩にあたる人ですね。同じ会計委員になるまでは、大した面識はなかったのですが。確か、元作法委員だったかと。事ある毎に、よく作法委員会から戻って来ないかと呼びかけられていたようですし。まぁ、それ程に化粧の腕は見事だったと言えるでしょう。学園で学んだ雑学、愛嬌・話術、卓越した化粧技術が加わって、四年生の時点で「変装名人」と評された人物です。
 同じ変装名人として、今の忍術学園には「千の顔を持つ男」と称される五年生がいるそうですが、変装した顔と体格が不似合いだと下級生にもダメだしを喰らうそうですね(ウケ狙いでしょうか?)。その生徒の変装の範囲を「広く浅く」と例えるならば、林蔵の範囲は「狭く深く」と言えば分かり易いでしょう。
 彼は特に、女装に大変な拘りを持っていました。女性の女性らしさを探求すべく、時間さえ合えば女装した“林子さん”の姿で“伝子さん”と語り合っていたとか。林蔵と山田先生のご子息は同い年らしいのですが、ご子息は“伝子さん”だけには良い顔をしなかったと聞きます。そういう意味では、“林子さん”と“伝子さん”は相性が良かったんでしょうね。“伝子さん”を心の友と言える人を、私は林蔵以外に見た事がありません。
 ご実家は花街のお店で、彼はそこの跡取り息子だそうです。話術も化粧も、そこで食べていくには必須項目ですね。在学中にその事を同輩に打ち明けた事はないそうで、当時は「色に溺れた上級生」なんても呼ばれていました。誤解されがちですが、彼は外見よりも中身を重視で相手を選ぶそうですよ。職業上、女性というものを知り尽くしていますからね。」


<蓬川兄弟>紹介者:御園林蔵(十八)

「俺がアイツ等の紹介かよ・・・。ま、いいか。
 南蛮の言葉だと唯一無二の事をを「オンリーワン」と言うらしいが、アイツ等の場合は「オンリーツー」(南蛮の“二”ってこれで良かったか?)だと言っていい。二人で一つ、という言葉を地で行くような感じだ。人生を不器用に生きてる奴を見ると「こうしたら楽なのに」とかって思う事があるだろ?あの双子は、それを自分たちで見る事が出来る。何せ、自分と同じ存在が別にもう一人いるからな。それでいて主観もちゃんと出来るんだから、そりゃあ一般人とはかけ離れてても仕方ないだろう。
 自分を客観的に見れる奴ってのは、何かと効率が良い。アイツ等は二人一緒だとそれが出来る。少なくとも、忍術学園・二年生の頃に地獄の会計委員会に入っていた頃からな。あの年齢でそれが出来るっていうのは、結構凄い事だ。ま、だから一人でいる事を強いられた一〜二年の頃は完全なる落ち零れだったそうだが。特性が理解された上級生にもなれば、実技座学共に学年首位を独占したそうだ。あんなのが首位独占とか、周りはさぞかし大変だったろうな・・・。
 その集中力と効率が最も発揮されたのが、アイツ等の独自の世界の極み・薬学の分野だ。アイツ等は鉄粉が主食というとんでもない偏食家だ。成長期の大事な時にそんなもん食い続けたもんだから、アイツ等は文次郎よりも背が小さい。一年生の頃に丸暗記した図書室の秘蔵書の知識から、忍者食と薬学に力を入れるようになったらしい。俺としちゃ、アイツ等の作った忍者食にも薬にも世話になりたくないけどな。
 後、特筆すべき所っていえば、その独特な世界観から来る渾名呼びだ。俺は「詐欺師」から「さっちゃん先輩」だし、文次郎は「泣き虫」から「なっちゃん」だった。渾名呼びはアイツ等なりの友好の証だそうだが、年下からちゃん付けされるってのは正直、好きじゃねぇ!」


<潮江文次郎>紹介者:浜仁ノ助(二十)

「忍術学園に在学する、プロ忍に最も近いと言われる六年生の生徒。その一人であり、俺が創設した地獄の会計委員会の後輩に当たる。委員会の帳簿や、夜間の鍛錬などの疲れが目の隈として出て来易いのだろうな。気を張っている事が眉間の皺に出ている事も手伝って、外見以上の年齢に見える事もあるようだ。この辺りは、俺よりもお前たちの方がよく知っているだろう。
 ・・・俺は己の性格が人当りの良いものとは思っていない。だが、潮江文次郎はそんな俺に共感して正心を持つと言ってくれた数少ない・・・いや、唯一の人物だ(全ての生徒に正心を説いた訳ではないが)。あれは憧れる物に対しては純粋であり、その思想や技術を、乾いた土が水を吸い取るように体得する。理由は分からないが、忍者を万能の存在だと思っているようだ。その為に、忍者である為に必要と思う俺の正心や徳ヱ門の武道などを受け継いだ。・・・林蔵の猫舌や、双子の鉄粉お握りまでも。
 それと、当人はあまり話そうとはしない事だが。どうやら、あれは「見えている」らしいな。あぁ見えて感受性が強いのも、その為かもしれない。」

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