<潮江が浜と会っていなかったらO>※IF、年齢操作なし、潮江の性格変更有り

 しくじった。と、仙蔵は己の迂闊さを呪わずにはいられない。
 六年い組の実習。“いつも”なら、隣には文次郎がいる筈だった。けれど、彼は隣どころか人影に隠れて姿を見せなかった。彼の姿を見かけたのは実習中。仙蔵からして見れば低レベルな罠に引っかかっているのを見て、苛立ちと別の感情が吹き上がって来た。そして、動いてしまった。

 仙蔵の右足には青い瘤が出来上がっている。命に別状はないものの、動く事もままならないだろう。
 そして、仙蔵の隣にはオロオロとした表情の文次郎がいる。

「・・・ぁ、ぁの・・・立花・・・さん?」
「――“さん”はいらない。救援の狼煙は上げたから、いずれ先生が・・・」
「どうして・・・助けてくれたんだ・・・?いつもなら、無視するのに・・・・・・。」
「・・・・・・。」

 いつも、とは。仙蔵の記憶にない“此方”の仙蔵の話だろう。喜八郎から話を聞いて、今の自分と“此方”の自分との違いがある事は承知している。
 あの時は、ちょっとした恐怖で聞く事は出来なかったが。今は確かめなくては、という感情が働いた。

「・・・お前には、私がどう見えているんだ。」
「え、どう、って・・・」
「それに答えたら、お前の質問にも答えてやろう。」

 最後の言葉が効いたのか。文次郎は少し考えて、戸惑って、それから漸く口を開いた。

「・・・・・・立花仙蔵は、学年一の成績で、誰もが認める天才で、・・・俺の憧れだった。でも、それは迷惑だったと思う。」
「どうして、そう思う。」
「前に言ったじゃないか。「凡人如きに私が理解出来る筈がない」って。実際、仙蔵は周りを見る度に苛々してるみたいだったから・・・なるべく、視界に入らないようにしてた・・・。」
「――。」

 仙蔵は絶句する。自分には、そんな事を言った記憶はない。が、“此方”の自分がそう言っていて、その仙蔵と自分とを、文次郎は同一人物だと思い込んでいる。
 自分だからこそ、分かった。“仙蔵”の言葉は下らない虚勢だと。自分と相手に勝手に一方的な壁を作って、閉じ篭ったままなのだ。
 逃げて、怯えているのは文次郎だけでは無かった。

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