その頃、四度目の迷子とでも言うべきか。左門は六年長屋に到着していた。

「天日先輩!」
「それ、僕の名前それじゃないんだけど・・・。」
「この前は有難う御座いました!会計委員長が出席されたお陰で、無事に予算会議を終える事が出来たそうです!」
「聞いちゃいないね。」

 あの予算会議が無事と言えるかどうかは、流石に疑問なのだが。左門が満足しているならばそれでもいいか、と納得する事にした。
 目の前の一年生は会計委員なのだから、強引に言ってしまえば各委員会の予算がどうなろうと知った事ではないのだ。それに、自分たちは左門を“あの四年生たち”よりは気に入っている事を最近知った。左門の真っ直ぐさは、何処か文次郎に似ているものがあるのだ。

「君の言葉に感動したんじゃないかな。会計委員長、そういうのに弱いみたいだし。」
「そうなのですか?」
「性格が可笑しいって皆言ってるからね。真っ直ぐな言葉に慣れてないんだよ。」
「では、また会計委員長に伝言をお願い出来ないでしょうか!私の言葉を聞いて下さり、有難う御座いました!と!」
「・・・うん。伝えとくよ。」

 目の前の一年生は、未だに自分を「会計委員長を知る六年生」としか見ていない。だが、それでもいいかもしれない、と思う自分たちがここにいた。自分たちは二人共人付き合いが苦手だし、何より、彼が尊敬する先輩は他にいる。自分たちの大切な後輩から、憧れの目を奪い取る気にはなれなかった。

 彼は“潮江先輩”の言葉を信じている。きっと知る由もないだろう。その言葉が、自分たちが二人揃う事をはじめて認めてくれた先輩のものと同じである事を。『地獄の会計委員会』は、自分たちが何かをするよりも確実に、学園に根付きつつある。
 ならば、これでいいではないか。『地獄の会計委員会』は、ちゃんと彼が継いでくれている。自分たちは、それをほんの少しだけ支える事をしただけだ。

「・・・そう言えば、今日はお礼を言いに六年長屋まで来たの?」
「いいえ、違います!会計室が迷子なのです!」
「・・・・・・・・・。ね、おやつ食べてかない?鉄粉お握りがあるんだけど。」
「いえ、結構です!」

 即答で断られ、やっぱり変な子だなぁ、と思いつつ。縁側に座る乙太と室内に隠れている甲太は、予算会議のお茶請けとして出したものの誰も手を出さずに放置された鉄粉お握りを二人寂しく頬張る事にするのだった。

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