結局、あの日の委員会活動は左門の捜索に殆どの時間を割いてしまった。満足な委員会活動もままならない現状に、文次郎は深い溜息を吐く。

「どうした、文次郎?随分と沈んでいるではないか!」
「・・・そういうお前は、随分と浮かれてるな。仙蔵。」

 ポン、と肩に手をかけて話しかけて来た相手――同級生の立花 仙蔵は、実ににこやかな笑みを浮かべていた。それこそ、同輩の文次郎が逆に「気持ち悪い」とさえ思ってしまうかのような、満面の笑みだ。

「浮かれるのも仕方ないだろう!忍術学園に入学して四年目となるが、今年ほど委員会活動が楽しい年はない!」
「・・・あぁ、お前。作法委員会を自分の城にしたんだっけな・・・。」

 文次郎が実質「代理」と言われるのに対して、仙蔵は名実揃った作法委員会委員長代理だった。というのも、昨年の作法委員長が学園を卒業してからというもの、作法委員会には仙蔵以上の上級生が集まらなかったのだ。影で仙蔵が根回ししているのではないか、といった噂もあるにはあったが、その真実を知る者は誰もいない。
 実際、仙蔵は優秀で六年生にも負けない敏腕さを発揮していたので、教師陣から特に何かを言われる事もなかった。

「自分の城にした、とは聞き捨てならんな。皆が作法委員長の席に耐え切れずに自主退席したのだぞ?」
「あー、はいはい。お前は優秀だもんな。お前を下にして作法委員長になれる訳ねぇわ。」
「嫌にテンションが低いではないか?貴様も同じ委員長代理仲間だろう。」
「代理じゃねーよ、厳密には。ちゃんと先輩いるし。」
「――そう、その先輩についてだ!面白い話を聞いたぞ、文次郎!」
「・・・・・・留三郎。」

 仙蔵と同じく、嫌に上機嫌な様子で話しかけて来るのは四年は組の食満 留三郎だった。いつもは喧嘩腰になるというのに、今ばかりは嫌に笑顔だ。仙蔵に対しては隠していた感情を、一気に文次郎は露呈させる。

「ナニ気色悪い顔晒していやがる。」
「お前、あの双子の先輩と喧嘩したんだってなぁ!」

 文次郎の悪態にも態度を変える事なく、留三郎は実に愉快そうに文次郎が隠しておきたかった話を暴露してくれた。隠し通せるとは思っていなかったが、せめて予算会議が始まる前には収拾させておきたかった問題でもある。まさかこんなにも早くバレるとは。話題が話題たったので、興味深そうに仙蔵も文次郎を覗き込む。

「そう言えば、貴様。昨日の実習では嫌に早く帰りたがっていたな。そんなに食べたいメニューがあったのかと思っていたが・・・、成程。あの双子絡みだったか。」
「・・・何処で聞いたんだ、それ。」
「用具(うち)の作兵衛がな!同級の左門から聞いたんだと!」
「何だ、水臭いぞ文次郎!先輩と喧嘩したのならば、私たちに相談するべきではないか!」
「・・・・・・適切かつ親切なアドバイスがある・・・。」

 割り込んで来た四年ろ組の七松 小平太と、中在家 長次。
 誰もそんなの頼んでない。と、文次郎が告げるよりも先に、彼らは声を揃えて告げた。

「「あの二人と縁を切れ。」」
「・・・お前らは他に言う事がないのか。」

 前にもそのセリフ聞いたぞ、と呆れるように呟くと、どうにもそれがスイッチになってしまったらしい。
 出遅れた四年は組の善法寺 伊作すらも飛び込んで、彼らは叫ぶかの如く語り出す。

「いやいやいや、いい加減にお前の方こそ学習しろっての!」
「あの二人は相手にするだけ無駄なのだ!お前が世話に時間を割いて、授業はともかく私生活の時間がまるでないではないか!」
「先生に頼まれるんだから仕方ねぇだろ。」
「百歩譲って出席日数を足らせる為に六年長屋に出入りしてるのはいいけど、朝の飯から夜の就寝時間まで付き合う事ないんじゃないの!?」
「就寝時間までは付き合ってねぇって、普通に鍛錬してるだけだ。飯は食堂のおばちゃんに頼まれてるんだ。断れないだろ。」
「夜は鍛錬だというのならば、何故四年長屋に戻って来ない?!私が一人寂しく貴様を待っているとわからないのか!」
「お前が自分を寂しいなんて思ってもない事言うなよ。大体、待ってるったって寝てるだろう。」

 この文次郎の同輩たちは、事あるごとに件の先輩との縁を切れと言ってくる。というのも、彼らとあの先輩の仲は入学したばかりの一年生と二年生かと言わんばかりに悪い。そんな彼らの世話をしている文次郎が、どうにも許せないのだろう。

 ・・・そんな事を考える文次郎は知らないのだ。学年一の問題児の名を欲しいままにしているあの双子が、仙蔵たちにまるで子供のような悪戯を四六時中仕掛けている事に。最上級生として持つべき矜持など殴り捨てて、嫌悪の感情など隠すこともなく。あの双子はこちらを敵視している。唯一敵視していないと言っても過言ではいない文次郎に対してだけ、絶妙に誤魔化しているのだ。
 尤も、それが露呈された所で彼らの悪戯は本当に低レベルなものなので、文次郎が本気で彼らと縁を切るような事にはならないのだろうが。

「大体な、文次郎!お前が一番あの先輩に近くて、どうして何も思わないんだ!」
「どうして?何も?」
「あの二人は学園の規律という規律を破る問題児だぞ!真面目な貴様とはウマが合わんだろうが!」
「それは仕方ないだろ。あの二人だし。」
「悟ってる!それは悟ってるぞ、文次郎!いつものギンギンに忍者を目指す姿勢はどうした!」
「と、言われてもな・・・。あの二人、座学の分からない所とか教えてくれるし。」
「そんな事なら、どうして私を頼らない!私はお前の同室だぞ!」
「お前に聞くと「そんな事も分からないのか」から始まって長いんだよ。あの二人だったら答えを即答だし。」
「長いだと?!」
「あの二人って揃うとコンビネーションもいいから、二対一の組手のいい鍛錬になるし。」
「二対一の組手なら、我々が相手になるというのに!なぁ、長次!」
「・・・遠慮するな。」
「遠慮とかじゃねーの。あの人たちの方が上手だから俺が頼んでるんだ。」

 そもそも、この同輩たちがここまで自分にあの先輩と縁を切れと言うのは文次郎を思っての事ではないのだ。

「てか、お前ら。会計委員長と俺がいなけりゃ今年の予算会議は楽勝、とか思ってんだろ。」
「「当たり!」」
「んな事だろうと思ったよ・・・。」

 さっさと仲直りして予算会議に出て貰うよう、説得しなければならない。と、文次郎は溜息を吐く。
 ・・・否、仲直りというレベルではない。彼らに対して文次郎は常に下手で、今回の事も自分が悪いと直ぐに謝った。だが、それでも彼らは不機嫌なままなのだ。縁を切れ、と続け様に言う仙蔵たちは気付いているのだろうか。彼らが“本気”で不機嫌になれば、学園が内側から崩壊してしまっても可笑しくないという事に。

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