※穏やか文次郎の元に6年生が逆トリ



 突然だが、プロ忍に最も近いと言われている忍術学園六年忍たまの中でも、各委員会委員長として学園を引っ張っている立花仙蔵達六人は今、平成という未来に来ていたりする。理由を話せば長くなるので簡単にまとめると、善法寺伊作の不運が発動したからだ。
 未来に来た彼等は案の定コスプレやらなんやらと危うく警察に保護されかけたのだが、それを寸での所で助けてくれた人達がおり、現在その人達に保護されつつ帰る方法を探している。
 六年生はその人達に感謝はしたが、同時に微妙な気持ちにもなった。中でも潮江文次郎は複雑な心境を隠しきれないでいる。



「お早う、文次郎君、小平太君、長次君。今朝食の準備をしているから、汗を流してくるといい」

 未来に来てからも欠かさず行っている夜間鍛練から戻ってきた文次郎達は、部屋に戻る途中出会った男にそう話し掛けられた。
 七松小平太は「お早うございます!」と人懐っこい笑みを浮かべ元気よく返事を返し、中在家長次はペこりと頭を下げる。ただ一人潮江文次郎は、キュッと眉をひそめ口を結んだ。それを見た男に「どうかしたか?」と問い掛けられ、慌てて首を横に振る。

「いえ、何でもありません」
「……ならいいが。ああ、着替えは名前が用意しているから、そのまま向かっていいぞ」
「有り難うございます……潮江さん」

 聞き慣れてはいるが、他人に言うのは慣れておらずぎこちなくなる呼び名に、男は「どう致しまして」と穏やかに笑った。
 この男の名は潮江文次郎――つまるところ、室町の潮江文次郎の生まれ変わりである。



「くそっ、いつ見ても気味が悪い」

 リビングに消えていった未来の潮江文次郎――年上なので六年生達は潮江さんと呼んでいる――の背中を見ながら、文次郎は深く息を吐いた。その背中を小平太が叩きながら豪快に笑う。

「確かに違和感しかないな、あんな風に笑う文次郎は!」
「……とても落ち着いている……」
「俺は落ち着きがなくて悪かったな」

 長次の言葉に文次郎はブスリと膨れた。然し言う通りなので反論はしない。
 未来に来た文次郎達を警察から助けてくれた潮江は、実に穏やかな性格の持ち主だった。同じ顔なのに全く違う笑みを浮かべる彼に六年生達が呆然とする中、潮江は彼等を別荘に連れていき、帰る日まで面倒を見ると宣った。
 その手際の良さは半端なく、文次郎達は不自由のない暮らしを提供され、存分に帰る方法を探すことが出来ている。
 これに真っ先に慣れたのが小平太と長次で、二人は潮江を文次郎の兄的存在と見ることにしたらしい。仙蔵と伊作もまたそう思うようにしたらしく幾分か慣れた様子を見せている。残る文次郎とその犬猿の仲である食満留三郎は、まだ潮江の位置付けに迷っており未だ警戒心を隠せずにいる。
 潮江はそれら全てを穏やかな笑みを浮かべ受け入れているので、尚更である。



「あれ? 文次郎達、どこ行くんだい?」
「朝風呂でも浴びるのか?」

 言われた通り汗を流そうと風呂場に向かっていた時、身嗜みを整えた伊作と仙蔵と鉢合わせになった。小平太が元気よく「そうだぞ!」と答えると、伊作が「だから」と納得したように呟く。

「だからなんだ?」
「いや、さっきまで洗面所を使わせて貰ってたんだけど、名前さんがお風呂を沸かしていたから気になってて」

 君達が入るからだったんだね、と続ける伊作に文次郎は顰めっ面を浮かべた。

「名前さんは、まだそっちにいるのか?」
「いるよ」
「……俺、やっぱいい」

 伊作の返事を聞くか否や、文次郎は素早く踵を返した。だが仙蔵に「まあ待て」と首根っこを掴まれ、逃亡失敗する。

「離せ仙蔵!」
「文次郎、わざわざお前達の為に風呂を沸かしてくださっていると言うのに、それを足蹴にするつもりなのか?」
「うぐっ」
「それに、名前さんは未来の嫁ではないか」
「俺のじゃねえ! 潮江さんの嫁だろうが!」
「潮江さんは文次郎だから、嫁であっているな!」
「違う! いや確かに未来の俺なんだろうけど、そうじゃなくてっ!」

 ああもう、と文次郎は頭を抱えその場に蹲った。出来るものならこのまま何処かに消えてしまいたい。
 今文次郎達が身を寄せているこの別荘には潮江の他に、数名のお手伝いさんと名字名前という女性が住んでいる。この名前だが、どうやら潮江の婚約者であるらしく、文次郎達を紹介されて「まあ、ご先祖様ですか」とあっさり受け入れた強者である。
 文次郎はこの名前を苦手としている。一生独り身を貫くと決意していると言うのに、まさか未来で婚約者がいるとは思ってもおらず、何より名前が「ご先祖様」と嬉しそうに笑いかけてくる度に変な感情に襲われて可笑しくなりそうだった。
 恐らく喜々として風呂を沸かしている名前を想像し「勘弁してくれ」と息を吐く。


 今はまだ考えられないけれど、何時か嫁を娶るのもいいかもしれないと思い始めていることに、文次郎はまだ気付いていない。

20130423
あい様へ二万打フリリク企画
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