社会の裏側事情

「お前達を誘拐したのは、日本支部傘下のテロ組織だ」

 チラチラと時計を頻りに確認しながら、文次郎が仙蔵達が今置かれている状況について説明しだした。テロ組織、と現実味離れた単語に仙蔵の顔に困惑の表情が浮かぶ。

「この平和な日本にテロ組織など……」
「それはお前達が表社会にいるからそう思うだけだ。こっちは今も昔も変わらず、陰謀呪詛暗殺その他様々が行われている」
「……その言い方だと、まるで忍者のような存在が未だ健在していそうだな」
「いるぞ? 武士は流石にいないが、陰陽師だっている」

 皮肉を込めて言った言葉に、さらりと文次郎は肯定で返した。意表をつかれた仙蔵は目を見開き、「いるだと?」と震える唇を動かす。

「忍者は滅びていない、のか?」
「ああ。お前達の学園長も――今は引退されているが、未だに世界中で恐れられている『忍者』だ」
「まっ、待て文次郎、少し待て」

 ただでさえ『潮江文次郎』の生まれ変わりと出会ったばかりなのに、テロ組織や忍者等と現実味離れした情報の多さに、優秀な仙蔵の脳も処理することを拒んだ。
 然し文次郎は「それは出来ない」と無情にも却下する。

「時間がない。簡潔にまとめるからよく聞け。
 大川学園長は今は引退されている忍者だが、その名は今も世界中に轟き、日本では裏三大権力の一つと呼ばれている。だから日本での活動を活発化を目的とするテロ組織は、邪魔になるだろう大川学園長の暗殺計画を立てている。お前達は運悪くそれに巻き込まれ、運悪く個人情報が渡り、テロ組織に目を付けられた。大川学園長はアステリスクにお前達の護衛を依頼し、俺達にその役目が渡ってきた――という訳なんだが。
 一通り説明してみたが、理解出来たか?」
「出来るわけないだろう!」

 思わず『潮江文次郎』の口癖であったバカタレと言おうとし、だが寸での所で飲み込んだ。ハアハアと肩で息をする仙蔵に文次郎は「やっぱそうだよな」とあっけらかんと笑う。全く悪びれている様子はない。

「お前達全員同じ反応するから面白れえ。食満はムカついたが」
「あの家鴨はどうだっていい! そんな簡単に信じられる訳無いだろう!」
「見たのにか?」
「何を……っ!」
「――俺が人殺しをしたのを」

 しかもお前の前では二人。
 息を吐くかのように何でもないように言った文次郎の言葉で、仙蔵の脳裏にあの犯罪行為が行われた瞬間が甦った。
 ヒュッと息を呑む仙蔵に、ニヤリと文次郎は嗤いかける。

「改めて自己紹介しようじゃないか、立花仙蔵。
 ――俺の名はフミ。アステリスク幹部鶴木美亜様に忠誠を捧げる影閃一人」

 その目は、かつて己もしていた闇に生きる覚悟を背負った者の目。反道徳的行為に身を染めた者特有の、ドロリとした濁りのある目。

「人を切るのが大好きな、暗殺者だ」

 宜しく頼むぜ、前世立花仙蔵君?
 クツクツと嗤う声は、かつてのものと似ても似つかないものだった。

20130409
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