意味のない本文

 目を開けると、見知らぬ天井が飛び込んできた。定まらない思考でボーッとそれを眺める。
 緩やかな風が髪を揺らしたので窓を見れば開いていた。白いレースのカーテンが風の動きに合わせて揺れ動いている。
 身体を起こし、部屋の中を見渡した。ベッドの他に、タンスや丸テーブルといった必要最低限の家具が置かれているが、余計な物はなくどこか殺風景な印象を与えている。

(ここは、どこだろうか)

 仙蔵は首を傾げつつベッドを降りた。何と無く丸テーブルに近付くと、鈴と折り畳まれた紙が置かれていた。
 紙の方を手に取ると『前世立花仙蔵だった者へ』との文字が。

「そうだ、文次郎……!」

 それで、パッと頭の回線が繋がった。急いでそれに目を通す。


〔一から説明するのも面倒だから、予習としてこれ読んでおけ。

【アステリスク】
 元は天皇に仕えていた忍集団『星影(ホシカゲ)』。第二次世界対戦後に公布された日本国憲法をきっかけに独立。その後裏社会を中心としてその勢力をのばし、今現在裏社会で世界規模の万屋組織となっている。

【影閃(エイセン)】
 アステリスクNo.1幹部美亜様の直属部下集団。美亜様のお役に立てることが至上の幸福。全員異常嗜好暗殺者だから暗殺の任務が殆ど。稀に護衛の任務も入る。〕


「……全く説明になっていないぞ文次郎……!」

 隅々まで目を通した仙蔵は、思わずそれをくしゃりと握り潰しそうになった。
 全く持って理解不能である。何が予習なのか予習出来るほどの知識も何もない。
 力を込めたことで紙に皺が寄り、二枚に分裂した。否、分裂したわけではなく、二枚が重なり一枚のようになっていただけであるが。
 その二枚目に仙蔵は嫌な予感を覚えた。恐る恐るそれに目を通す。


〔おまけでこれも。

【俺】
 前世は確かに『潮江文次郎』で記憶もあるけど、俺とあいつは全くの別人、つうか前世は前世今は今。因みに俺の名前はフミだからな。

【コト】
 俺の相棒。虚ろで死んだ目の女。影閃一とち狂った思考で肉体的拷問趣味だから気をつけろよ。

【シュウとリュウ】
 女装男装趣味の奴ら。見た目の性別と反対だから気をつけろよ、あれは男だ。

【リクとウミ】
 俺達の兄姉的存在。何かあったらこの二人に聞けばいい、世話焼きだから丁寧に教えるはずだ。因みに見ているこっちが恥ずかしく成る程のバカップル。

【ツウとセイ】
 俺達のリーダー。仮面男二人組。会うことはないと思うが一応。

影閃 フミ

 追記。起きたらテーブルの上にある呼び鈴を鳴らしてくれ〕


「ここまで重要な追記は初めてだ……!」

 追記が追記として機能していないそれを今度は握り潰し、仙蔵は乱暴に鈴を手に取り鳴らした。
 甲高い音色が響き渡り、少しして部屋のドアが開く。

「起きるの遅かったな、前世仙蔵現世不明君」

 ドアから入って来る、Tシャツとジーンズというラフな恰好をした前世での同室。その変わらない顔に向けて、仙蔵は握り潰した置き手紙を投げ付けた。

20121130
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