どうでもいい

 家族の手刀により気絶した前世の同胞達が地面に崩れ落ちるのを、文次郎は黙って見ていた。咎めるつもりはない、寧ろ誰も動かなければ文次郎がそれ以上に酷い方法で彼らを黙らしていた。
 家族が前世の同胞達を担ぎ上げる。急に眠たくなり文次郎は欠伸を零した。生理的な涙が滲む目を擦ると、コトが虚ろな目を向けてくる。

「あの子達、何?」
「大川学園の生徒で、あいつらに目を付けられたから『保護対象者』になった。今から連れて帰って事の説明だな」
「……私のせい?」
「違えよ、コト。お前の『あいつらの命を優先する』判断は正しかった」
「なら、いい」

 感情のない目に一瞬だけ薄らと安堵の色を浮かべたコトに、目敏く気付いた文次郎は意外そうな表情を浮かべた。
 家族が車へと移動する。その後を二人並んで続く。

「珍しいな、お前が迷っていたなんて」
「違う。ただ、フミが傷付けられたから」
「あ?」
「あの子達、フミのこと『文次郎』って呼んだ」

 静かな声に、文次郎は押し黙った。コトは文次郎を見上げ、次いで視線を担がれている者達に移す。

「前言ってた、前世の同級生?」
「……ああ」
「探してたってね、前世のフミのこと」
「はっ、馬鹿らしい」

 思わず出た嘲笑に、コトは一つ頷き同意する。

「前世は前世、今は今。フミは前世のフミじゃない」
「ああ、そうだ。俺は『潮江文次郎』じゃない」
「それも、説明した方がいい。あの子達は納得しないと引き下がらない、と思う」
「分かってる、お前達には迷惑かけねえよ」
「迷惑だなんて思ったことは一度もない」
「……おう」

 フミ、コト早くー、と弟分的な存在の家族に呼ばれ、文次郎はヒラリと片手を振り返す。
 その時、クシュンとコトがくしゃみをした。寒いかと聞けば、小さく頷かれる。

「ったく、ほらよ」

 羽織っていたローブを脱ぎ、コトに着させた。ブカブカのそれにコトは目を丸くし、だが「有り難う」とほんの少しだけ嬉しそうに笑う。

「大きい」
「どうせ後で洗濯するんだ、引きずっても構わん」
「フミ、大きくなった」
「成長期なんだから当然だろ」
「でもシュウには負ける」
「あれは規格外だ」

 ズルズルと裾を引きずりながら歩くコトの隣で、文次郎は昔を思い出し少し笑う。
 その首筋では、黒い龍の入れ墨が存在を主張していた。

20121129
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