間話

 下校する学生の波に逆らい、一人の少女がゆったりとした足取りで歩いていた。
 大川学園のセーラー服ではなく、可愛いと評判の有名私立校の緑色のチェックスカート、白色半袖ボタンダウンシャツ、紺色のベストの制服を身に纏っている。手には若干厚さのある革鞄を持っており、時折カチャカチャと中で何かが鳴っている。
 その容姿は、若干タレている目以外に特徴のない至って普通である。唯一の特徴と言っても過言ではない目も、死んだ魚の目のように虚ろになっていなければ印象に残ることはない。
 少女は生徒達の間をするすると器用に縫って歩く。余程影が薄いのか、生徒達は少女に気付いていない。
 突然少女は立ち止まり、虚な目を瞬かせた。歩きながら見つめる先には白いワゴン車があり、一人の男が寄り掛かって立っていた。足元には大きなスーツケースがあり、今から旅行に行く雰囲気を醸し出している。
 少女は視線をずらし鞄を持つ手を変えた。ふうと息を吐き、再び歩き始める。
 その姿は、重たい鞄に苦労している様だった。
 少女はゆっくりと歩き、男の前を通る。そのまま過ぎようとした時、何かが足に当たった。
 下を見れば、バレーボールが転がっていた。少女は立ち止まり数回瞬きをする。

「すみませーん!」

 パタパタと駆け寄る足音と声に顔を上げる。緩やかな猫毛の少年が駆け寄って来ていた。少女はボールを手に取り、少年に差し出す。

「有り難うございます。あの、これ当たって怪我とかしてませんか?」

 問い掛けられたそれに首を小さく振ると、少年はホッとしたように息を吐いた。再び有り難うと礼を言い、踵を返そうとする。

「うわっ!」

 だが何に引っ掛かったのか、少年が派手にコケた。たまたまその先にスーツケースがあり、盛大な音を立ててぶつかる。男が「なっ」と目を見開いた。

「なんでそうなるんだよ……」
「全く、相変わらずの不運だな」

 ガションと音を立てて倒れたスーツケースが弾みにより開いた。少女はパチパチと目を開閉し、その中身を見る。

「いててて、って……」

 頭をぶつけたのか摩りながら起き上がった少年は、偶然視界に入ったスーツケースの中を見て、ピシリと固まった。
 スーツケースの中には、拳銃とナイフが敷き詰められていた。
 えっと目を丸くする少年に、男が舌打ちをする。そのまま素早く少年の口に布で押し当て、車の中に放り込んだ。

「伊作!?」
「こいつら全員捕まえろ!」

 突然車に押し込められた少年の友人らしき者達が駆け寄って来る。だが男の叫び声を聞き、背後に現れた男達に捕まってしまってしまった。素早く布を口に押し当てられ、グッタリと気を失う。
 全員車に放り投げ込んだ後、指示を出していた男が少女を見る。

「お前もこいつらのようにされたくなかったら、大人しく乗れ」

 逃げることなく、助けを求めることなく、黙って見ていた少女は頷き自ら車に乗る。
 肩につきそうでついていない髪と胸元の赤いリボンが、ふわりと揺れ動いた。

20121127
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