バレーしたい

「最近この辺りで不審者の目撃情報がある。気をつけて帰れよー」

 それじゃあな、とのんびりした担任の言葉で、今日の学校の終わりが告げられた。
 一瞬にして騒がしくなる教室の中、小平太は鞄を取り無口な親友の元へと向かった。ちょーじ、と名を呼べばコクリと頷かれる。

「マックが食べたい!」
「……今日は、仙蔵の家に集まる日だ……」
「なら仙蔵の家に寄る前にマックに行こう!」

 二人で教室を出て、靴箱へと向かう。ふと食べたくなったそれを主張し妥協案を出せば、それならと長次は許可を出した。小平太はニッコリと嬉しそうに笑う。

「皆で行こう! あっちで食べてから仙蔵の家に行ってもいいぞ! それでバレーするんだ!」
「……今日のは、文次郎を探すのが目的……」
「……あっ、そうだった」

 指摘され、小平太は集まる理由を思い出した。バレーはしたいがそれ以上にかつての仲間を探す方が大事なので、グッと遊びたい気持ちを抑える。
 一緒に鍛練してバレーして遊んだ、前世の友人。六年生の中にポッカリと空いている穴を埋めることが出来る、ただ一人の男。
 五人はずっと文次郎を探している。後輩達に諦めろと訴えられても絶対に探すことを止めず、ひたすら現世では会ったことのない人物を追い求めている。

「ちょーじ、文次郎が見付かったら皆でバレーしよう! 私とちょーじと文次郎、留三郎と仙蔵と伊作で分かれて試合して! 負けた方がマックを奢るんだ!」
「……アイスがいい……」
「ならちょーじはアイスだな! それで、それで!」

 なぜなら約束したからだ、六人全員で卒業しようと。前世で果たせられなかったその約束を、現世で果たす為に。 

「今度こそ皆で卒業するんだ!」

 小平太の未来の予想図に、長次は目を細めた。この寡黙な友人の思考は小平太には難しく全ては分からないので、何を考えているのかは気にしない。

『小平太、無事学園に帰れたら皆でバレーでもするか』

 かつて言われた言葉が脳裏を過ぎる。ああ、この約束も果たさないとな、と小平太は幸せな未来の予想に頬を緩めた。

20121126
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