本を薦めたい

「中在家先輩、もうすぐで昼休みが終わりますが……」

 後輩の不破雷蔵に話し掛けられ、中在家長次はハッと我に返った。無意識に積み上げていた本の山を見、またやってしまったと内心苦笑する。

「……片付けよう……」
「お手伝いします」

 前世と同じように高校でも図書委員の後輩となった雷蔵の言葉に、長次は時計を見る。一人で片付けるのは時間が足りないので、有り難くその申し出を受けることにした。
 二人で手分けして本を持ち、本棚へと持っていく。

「中在家先輩は、潮江先輩の趣味をよくご存知ですよね」
「……どうしてだ……?
「ここにある本全部、潮江先輩が好んで読みそうな本ですから」

 表紙を見て「ほらこれも」と笑いながら雷蔵は丁寧に本棚へと戻す。どうやらこの後輩は、この本達が文次郎に読むよう薦めたい物であると分かっているらしい。
 長次も手にある本の表紙を見、フッと口角を上げる。

「……お前も、よく知っていると思うぞ……」
「ええ、図書委員として潮江先輩と接する機会も多かったので。勿論、一個人の後輩としても良くしてもらってましたが」
「……文次郎は、お前のことをよく褒めていた……」
「うわあ、それは嬉しいですね」

 前世は変装でそっくりだったが、現世はそっくりな顔で生まれた従兄弟では浮かべられないような、ほんわかな笑みを浮かべ雷蔵は喜んだ。心なしか、背後に花が飛んでいる気がする。

「ふふ、早く会いたい気持ちが強まりました」
「……会って、どうするつもりだ……?」
「そうですね、先ず最初にお礼……いや、三郎のことを謝るのが先かな? それとも嬉しかったからやっぱりお礼した方がああでも三郎が……」

 現世でも変わらない悩み癖を発揮した後輩を、それでも本を戻す手を止めないので流石図書委員だと褒めるべきなのだろうか。
 うんうん唸り悩む雷蔵に、先に戻し終えた長次が「すまない」と謝罪する。

「……聞いて悪かった、悩まなくていい。まだ文次郎は見つかっていないのだから……」
「いっ、いえ中在家先輩が悪いわけではありません! でもきっと直ぐ見付かると思います!」
「……何故だ……?」
「だって、中在家先輩達がこんなにも探しているんです。あの人がそれに答えないわけがありません」

 潮江先輩は何時も真っ正面から向き合い、答える人でしたから。
 そして雷蔵は「だからもうすぐ見付かりますよ」と自信満々に言い切った。悩み癖を発揮しない辺り、心からそう信じ疑っていないと窺える。
 長次は僅かに瞠目し、次いで目を伏せた。喉の奥にまで出かかった言葉を飲み込む。

「……そうであることを、望もう……」

 曖昧に濁した言葉に雷蔵は不思議そうに首を傾げたが、問い掛けることはしなかった。
 仕事を全て終わらせ、長次は雷蔵と共に図書室を出る。

『長次、お前の薦める本はどれも面白いな。また何かいいのがあれば教えてくれ』

 ふと、脳裏にかつての文次郎の言葉が横切った。だが思い浮かんだ彼の姿に、ギリッと奥歯を噛み締める。
 それらを振り切るかのように、長次は何時もよりも比較的乱暴に図書室の扉を閉めた。

20121123
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