※オリキャラ(歴代会計委員会)表現有り 今日は好きな人に物を贈る日らしい。 そのことを一年生にして既に可愛らしい恋人持ちなしんべヱに教えられた伸一郎は「じゃあ文ちゃんに何かあげないと!」と叫び、それを聞いていた乱太郎ときり丸に「好きの意味が違いますよ」とツッコまれた。だが、そんな些細なことはどうだっていい。現にどこぞの委員長は後輩達に菓子を配り回っているのだから、幼馴染みであり家族である文次郎に贈り物をしても文句を言われる筋合いはない。 伸一郎は直ぐさま町に降りて団子を買い、そのまま急いで戻り幼馴染みの部屋に直行。家族愛成せる業である。 「えっ、お前も?」 「わー、流石俺達幼馴染み!」 そしてそれは文次郎も同じだったらしく、二人は仲良くお互い買ってきた物を食べることにした。 「文ちゃん、あれ何?」 「仁先輩達から送られてきたんだ」 「流石初代組の宝物だな文ちゃん」 「その宝物っての止めてくれ」 文次郎が買ってきたわらび餅を食べながら、伸一郎は文机の上に置かれた包みの山を眺める。全部で四つあり、それぞれ大きさはバラバラである。 見ていいか聞くと頷かれたので、伸一郎は一番近い所にある包みを手に取った。綺麗に包装されたその包みを開けると、中から化粧道具一式が出て来る。 「それは林先輩からだな」 「……ああ、あの骨格レベルの変化の術をする人か。あの人絶対自由自在に性転換出来るだろ」 「俺もそう思う。女装へのこだわりは凄かったからなー……」 遠い目をする文次郎は、かつて着せ替え人形――無論女装である――として遊ばれていたのを思い出しているのだろうか。将又、女装の評価が悪かった為スパルタ指導で徹底的に女装の仕方を叩き込まれた日々をだろうか。 微妙な空気が流れたので、伸一郎は箱を終い別のを取った。唯一袋である包みを開けると、鉄臭い匂いが広がって来る。 「うわっ、鉄粉!?」 「鉄粉なら、こーた先輩とおーた先輩からだな」 「えっ、これってあの人前に滅多に現れることが無かった、悪食偏食珍獣双子先輩から!?」 「……珍獣って初めて聞いたぞ」 「だってあの双子先輩、特に後輩の前には姿現さなかったじゃん。だからあの二人の姿を見るとその日は不運だって伝説が……っ!」 「毎日のように世話をしていた俺はどうなるんだ」 「まあ、それは置いといてだ」 素早く袋を縛り、なるべく隅に置き遠ざける。この鉄粉がどのように使われるのかは想像したくない。 ジト目で見てくる文次郎から逃れるようにして、伸一郎は別の包みを開ける。 「おっ、苦無だ。しかも文ちゃんの名前入り」 「徳先輩だな、恐らく」 「……あの矛盾しまくった人か」 新品で上等な苦無から思い出すのは、夜間鍛練の度に頭に苦無を刺していた、色々と矛盾が多い先輩である。 影が薄く隠密行動が得意な癖して、武道派としても名高く。穏やかな笑みを浮かべている癖して、身内以外には滅法厳しかった。腹の中は墨よりも黒いと、当時は噂されていたものである。 贈り物に触れたら怒られる気がしたので、伸一郎は慎重に蓋を閉めそっと端に置いた。 「後は……」 「仁先輩からだな」 最後の包みは、文次郎が手に取った。贈り物の中で一番サイズが小さい正方形の箱である。 文次郎は丁寧に包装を剥がし、蓋を開けた。入っていたものに二人揃って目を丸くする。 「これって確か……」 「ちよこれいと、だったか?」 「何かそんな感じの名前だった気がする」 甘い匂いが広がる、濃い焦げ茶色の四角いお菓子。確か南蛮のお菓子だったはずである、原材料は覚えていない。 文次郎は一粒取り、口の中に入れた。途端蕩ける甘い味におおと顔を綻ばせる。 「これは美味いな」 「マジで? 俺も一ついい?」 「おう、ほら」 文次郎が一粒掴み、伸一郎の口元に寄せる。伸一郎はそれを躊躇うことなく手渡しされるまま食べた。 「おっ、結構いけるな」 「だろ?」 「これ手作りなんかなー」 「さあな、仁先輩結構凝り性だし、もしかすると手作りかもしれんな」 「……想像つくようなつかないような」 というより想像したくない伸一郎は、雛鳥のように口を開けて待つ。文次郎はもう一粒取り、その口の中にお菓子を入れる。 「まっ、美味いからいっか」 「そうだな」 己ももう一粒食べた文次郎は伸一郎の言葉に同意しつつ、指についた粉を舐めとった。 20130214 prev 栞を挟む next [目次 表紙 main TOP] |