※「六はとの絡み」ネタ


「あっ、松平」

 呼び止められた伸一郎が振り返ると、薬草が山積みに詰まれた籠を背負った伊作が立っていた。何と問い掛ければ、申し訳なさそうな表情を返される。

「もし文次郎と会えたらさ、『医務室に来い』って伝えてくれないかい?」
「ん、いーけど」
「有り難う、頼んだよ」

 いい返事を貰え安堵の表情を浮かべる伊作に、伸一郎は何と無く嫌な予感を覚えた。これ以上話を長引かせると危険と判断し「それじゃあ」と踵を返す。
 「頼んだよ」と妙に明るい声で念押しし、伊作は軽やかな足取りで医務室へと向かって行った。それを少しだけ振り返り確認した伸一郎は、しまったと顔をしかめる。

(文ちゃんが被験者になる予感がするぜ……)

 十中八九間違っていないだろう予想に、然し今更取り消すことも出来ず。
 仕方ない、と伸一郎は幼馴染みを探すことにした。

「あっ」

 その数分後に留三郎を見付けたのは、文次郎の代わりに留三郎を向かわせよという天の思し召しなのだろうか。
 何も躊躇いもなく生贄をして差し出そうと決めた伸一郎はスススッと留三郎に近寄る。

「食満」
「あっ? ……ああ、松平か」
「今潮江探してんだけどさ、何処いるか知らねえ?」

 一瞬名前を思い出せなかったのか空白があったが、そこまで親しくないので気に障ることもない。
 取り敢えず文次郎の居場所を聞いてから、医務室に向かわせようと企む伸一郎を尻目に、留三郎が「文次郎?」と顔をしかめる。

「さっき医務室に行ってたが、あいつに何か用でもあんのか?」

 どうやら神の思し召しではなかったらしい。
 留三郎の言葉に、伸一郎はピシリと固まった。辛うじて「ああ、医務室ね……」との言葉は出て来たが、頭の中では先程の伊作の笑顔がグルグル回っている。

「ちょっと伝言頼まれててさ」
「伝言なら俺が代わりに伝えてやろうか? あいつとなら後で喧嘩するだろうし」
「いや、大丈夫だ。それじゃあ」

 フラフラとした足取りでその場を立ち去る。後で甘味を持っていってやろうと、今頃医務室で悲鳴をあげているだろう幼馴染みを思いそう決めた。

20130201
伊作→文次郎関連でしか話さない
留三郎→幼馴染みだと気付いていない
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