※文次郎が幼児半獣化 「とりっく・おあ・とりーと」 ピョコンと揺れるのは、小さな頭から生えている猫耳。差し出される手は人間のものではなく、フニフニの肉球が魅力的な猫のもの。足も同じように猫のものに変化しており、二足立ちが苦手なのかプルプルと震えている。身に纏うのは黒の毛皮。首には鈴が付いた首輪を巻いている。 年齢は三歳か、若しくはそれ以下か。見覚えのある左右形の違う大きな目の下には、薄らと薄い隈が鎮座している。 松平伸一郎は数回瞬きをし、あーと意味もなく声を出した。頭を掻き、コホンと一つ咳ばらい。顔をキリッと整え、一言。 「トリックでお願いします!」 「今すぐくたばれ変態が」 大真面目に言った言葉に、何故か幼くなっている猫のコスプレをした幼馴染み――潮江文次郎ではなく、その後ろで成り行きを見守っていた立花仙蔵が手にしていた箒を投げ付けた。 「お前文ちゃんだよな? どうしたんだよちっちゃくなって」 「せんぞうといさくが……」 「成る程、原因はお前か立花」 「可愛くなっただろう?」 「文ちゃんは元から可愛い!」 見事箒が顎に直撃した伸一郎は、ヒリヒリ痛むそこに顔をしかめつつも文次郎を膝の上に乗せた。大人しく乗った文次郎は、伸一郎の顎を心配そうに撫でている。 対面するように乗せたので、尻から出ている尻尾に気付いた。本物のように左右に動くそれを見ながら、なあと仙蔵に尋ねる。 「これ本物?」 「ああ。伊作の薬を飲ませたら、幼児に戻り半獣化したんだ」 「不運委員長何者。つうかお前のその格好、何?」 「今更それを聞くのか」 呆れた目を向ける仙蔵が着ている服は、制服でも私服でもない。 南蛮の女性が着るような上下が一続きになっている黒のドレスに身を包み、頭に大きな赤いリボンを着けている。 全く違和感を感じさせない仙蔵は、下の裾を掴み「ハロウィンだ」と説明する。 「長次に教わったのだが、今日は子供が仮装して家々を回り、大人から菓子をもぎ取る日らしい」 「認識が激しく間違っている気がしてならない」 「そこで私達も便乗してみることにしてな。私が魔女、文次郎が黒猫の仮装だ」 「文ちゃんのは最早仮装じゃないよな」 ツッコミ所が多すぎて追い付けない伸一郎は、取り敢えず文次郎は仙蔵に巻き込まれた、とだけ理解した。 仮装の為だけに幼児化、及び半獣化させられた幼馴染みを見下ろし小さな頭を撫でる。 「お疲れ様、文ちゃん」 「もういやだ……」 「でも似合ってるぞー?」 可愛いなーと連呼しながら、何と無く顎の下を撫でてみる。 すると文次郎は気持ち良さそうに目を細め、ゴロゴロと喉を鳴らした。どうやら本能も獣並になっているらしい。尻尾の付け根を掻いてみると「んみゃぅ」と声を上げ尻尾を腕に巻き付けてきた。 甘えられた伸一郎は、手を止めることなく何かを思案する。 「文ちゃん」 「んにゃ?」 「猫パーンチ」 軽く拳を握りフニッと頬に当てると、文次郎は擽ったそうに身じろいだ。仕返しと言わんばかりに柔らかな肉球を伸一郎の頬に当てる。 「猫パンチ!」 「やったなこいつう!」 「みゃっ! 伸一郎擽ってえ」 ギュッと幼くなった幼馴染みを抱きしめ頬擦りし、文次郎もまた嬉しそうに体を擦り寄せ。 キャッキャッとじゃれ合う幼馴染みコンビに、すっかり蚊帳の外となっていた仙蔵は「このバカップルもどきが」と白い目を向けた。 20130121 JAM.様へ prev 栞を挟む [目次 表紙 main TOP] ![]() |