一通り破片を頭巾に集め終えた文次郎は、零さないよう包み込みフウと息を吐いた。
 細かい破片は伸一郎が持って来るだろう帚で掃き取ればいい。待つのも暇なので食堂に向かおうかと思ったが、その間に誰かが通り怪我をしてはいけないので止めにする。

「おやおや、潮江文次郎君ではないですか」

 突然、気配無く声をかけられた。文次郎は忍び込ませていた暗器に手を伸ばし後ろを振り向く。教師達と同じ黒い忍服に身を包んでいる男が、箒を持って立っていた。
 見慣れぬ男に誰だと問おうとし、然しゴオォオオンと鐘の音に似た音が脳裏に響く。

「……っ、先生」

 パッと回線が繋がり、目の前の男が教師であることを思い出した。名前は覚えていないが、確か実技教科の担当だった気がする。
 気配を感じられなかったのは当然か、と悔しさを混ぜつつ警戒を解くと、男はより一層笑みを深めた。

「何をしているんですか? 鍛練、ではなさそうですが」
「いえ、実は皿を割ってしまいまして……」
「それはそれは、私の帚の出番ですねえ」

 クスクスと笑いながら音もなく近寄る。文次郎は何故持っているのか聞こうとし、ゴオォオオンと鐘の音に似た音が響き渡る。

「……そういえば、先生は何時も箒を持っていますね」
「一番使い勝手がいいんですよ、これが」

 そうだ、この人は箒を刀のようにして扱う人だった。
 思い出し納得した文次郎は、お願いしますと男に向けて頭を下げた。男は勿論と笑い、文次郎に示された場所を箒で掃く。

「大きな破片はないようですが?」
「拾える分は拾いました」
「そうですか、偉いですね。それはどこに?」
「これです」

 破片を包んでいる頭巾を見せる。男は猫のように目を細め、それと頭巾を指差す。

「私が捨てて置きましょう」
「いえ、実はこれ食堂のものでして……」
「ああ、なら私に任せなさい。おばちゃんには私から言っておきますから」
「そんな、俺が割ったんですから悪いです!」
「ふふ、おばちゃんとは仲良しなので心配いりませんよ。それに君が叱られるのも忍びない」

 それに、お友達を待たせているんでしょう?
 そう言って男は頭巾を受け取り、文次郎の背中を押した。ゴオォオオンと鐘の音に似た音が響く中、文次郎は男の言う通りにしようという気になる。

「すみません、お願いします」
「はい、お願いされました」

 ペコリと頭を下げ、文次郎は食堂へと足を進めた。男の言う通り、伸一郎がそこで待っている。

「色んな意味で、ね」

 遠くなる背中を見つめ、フッと男は口角を上げた。頭巾を広げ包まれていた破片を落とし、それをサッと帚で掃く。
 掃かれた破片が淡い光りを放ち、止んだ頃には元通りに戻っていた。

20121120
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