つまらない。天川恋歌はそう零し頬を膨らませた。
 恋歌がそう望まない限り、その呟きが取り巻きに聞こえることはない。ここは恋歌の夢の中なのだから。
 交通事故に会ったあの日、願いを叶えるという男と出会った時からずっと、恋歌は夢の中で暮らしている。
 それを不思議に思ったことも不安に思ったこともない。交通事故が原因だと分かっている、恐らく今己の身体は意識不明の重体なのだろう。だからこんなにも深い深い夢の中に引きずりこまれているのだ。

「よそよそしくされるの、結構辛いなー」

 夢の中でもいいから行きたいと思っていた大好きな落乱の世界に、本当に夢の中で行くことが出来た。憧れていた羽衣を身に纏い、大好きなキャラと会うことも出来た。
 最初はそれだけで満足だったのだが、最近では物足りなく感じている。

「やっぱり逆ハーが一番かな?」

 六人掛けのテーブルを一人で占領している恋歌は、ポツリと呟き「一番だよね」と自答した。
 キャラと恋愛したいわけではなかったせいか、キャラ達は恋歌のことを特別扱いしない。リアリティを追求するのは好きだが、夢の中でもそれが出て来るとは思っていなかった。
 夢小説での逆ハーはどちらかと言えば苦手だったのだが、これは本物の夢である。乙女心に逆ハー展開を求めても誰にも文句は言われない。

「よし、でもいきなり逆ハーは抵抗あるから、徐々に好かれていく逆ハーにしよう!」

 最初は苦手に思っていても恋歌の魅力に気付き徐々に惹かれていき、最終的には恋歌無しではいられない程依存するキャラ達と、それを受け入れる恋歌が一生幸せに一緒に暮らしていく。
 脳の中で組み立てられたシナリオに、恋歌は自画自賛を送った。
 何と幸せな夢なのだろう、と己の夢に酔いしれる。

「ああ、早く皆来てよ。私が望んでいるんだから」

 ここは、恋歌の夢の中。全て恋歌の思うがままの、恋歌の為の楽園。
 名前も、容姿も、声も。全てが理想の自分の姿。キャラ達から向けられる愛も全て自分のもの。
 ザワリと食堂の出入口付近からざわめきが生じた。キャラ達が来たら知らせるよう頼んでいたモブキャラが恋歌の元に駆けて来る。
 ああ、やはり夢の中は居心地がいい。恋歌はニヤつく顔を抑えないまま、愛しいキャラ達を出迎える為立ち上がった。

20121111
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