眩しい光と共に舞い降りて来た少女。見慣れぬ南蛮の服に身を包み薄い桃色の羽衣を纏った少女は、自らを天女と名乗りこう言った。

「私、貴方達のことずっと見ていて、会いたいって思ってたの!」
「何それ気持ち悪!」

 自称天女という少女に変装した鉢屋の言葉に、文次郎は思わず後ずさった。引っ付いたままの三木ヱ門も一緒に引きずられる。
 ふふっと少女の姿をした鉢屋は笑った。文次郎の反応に満足そうにしている。

「駄目ですよー、潮江先輩。女の子にそんなハッキリ言っちゃあ」
「ならお前は思わなかったのかよ」
「勿論潮江先輩と同じように思いましたよ?」
「じゃあいいじゃねえか」
「女心が分かっていませんねえ。そんなんだからくのたまに嫌われるんですよ」
「余計なお世話だ!」

 鉢屋自ら名乗り出て再現された、少女が降りてきた場面。
 想像以上に不気味だったそれに文次郎はこめかみを押さえつつ、口に出して整理する。

「あー、空から降ってきた女は天女と名乗り、今の科白を言ったんだな?」
「ええ、そうですね」
「よし、変質者で決まりだな」

 清々しい程キッパリと断言した文次郎に、おーと綾部が拍手する。他の面子も苦笑を浮かべ、だが文次郎の言葉を否定しない。
 それにしても、と文次郎は鉢屋を、正確には少女の変装を見る。
 確かに男に好まれる容姿だとは思う。だがこれで『天女』だと言われて信じれる程美しいかと言われれば、答えは否だ。決して美しいとは思えない、ハッキリ言ってしまえば幼な過ぎる。

「……いや、この場合鉢屋が幼いのか?」
「何がです?」

 口に出ていたらしい思考に、鉢屋が首を傾げる。文次郎はそれになんでもないと返してから、さっさと変装を解くよう頼む。何故かと聞かれたので、一言。

「気持ち悪い」
「……先輩、それは私の変装がですか? それとも天女サマが?」
「両方だな」 
「先輩酷い! 天女サマはともかく、私の完璧な変装を『気持ち悪い』だなんて!」
「三郎、それもどうかと思うけど……」

 キャンキャン抗議する鉢屋を、雷蔵がやんわりと止める。
 文次郎は気にせず仙蔵を見、気になっていたことを問い掛ける。

「何故先生方は女をここに留めているんだ?」
「言っただろう、先生方はあれを『天女』だと信じているのだ」
「……学園長もか?」
「学園長もだ」

 否定してほしかったことを肯定され、文次郎は顔をしかめた。
 仙蔵達は少女を『天女』として認めていない。だが学園長を筆頭とする先生方は『天女』と認めている。先生方のことは尊敬しており、学園長に至っては絶対の信頼を抱いているのだが、かと言って仙蔵達の目が可笑しいとは思えない。
 どちらが正しいのか、今の文次郎には判断することが出来なかった。
 そんな文次郎の心情を悟ったのか、仙蔵が「それはさておき」と話を変える。

「そろそろ本題に入るとしよう」
「本題?」
「ああ、そうだ。文次郎、ここに集う者は皆、あれが『天女』であろうが無かろうがどうでもいいんだ」

 フッと仙蔵が哀愁を漂わせ笑う。
 えっと目を丸くする文次郎を尻目に鉢屋が遠い目をする。他の者も皆似たような目だ。

「先輩、ここにいる人は皆天女サマのお気に入りなんですよ」
「お気に入り、だと?」
「ええ、お気に入りです。お気に入り中のお気に入りです。迷惑な程気に入られているんです」

 徐々に刺々しくなる鉢屋の言葉に、文次郎はたじろぐ。
 つまり、と綾部がのんびりとした口調でまとめる。

「私達、天女サマに逆セクハラされてるんですよー」
「……はあ!?」
「だから困ってるんですよねー」
「ちょっ、ちょっと待て! 仙蔵、話の内容が見えないんだが!?」
「話が分からん奴だな、文次郎。つまり、お前をここに連れてきた訳は――」

 ニッコリと仙蔵は笑った。その笑顔の意味を文次郎は嫌という程知っている。
 清々しい程いい笑顔を浮かべている時は、大抵文次郎にとって良くないことを企んでいる時。

「――私達の盾になってもらうためだ」

 今回もまた同室者は、無茶苦茶な要求をしてきた。

20121106
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