【プロローグ】


「年頃の女の子は怖いものだ。愛される為に全てを捨てられるとはね」

 クスクスと笑う声には、嘲りの色が含まれていた。それでいて楽しんでいる。三流役者が演じる滑稽な劇を見ているかのように。

「それを利用する貴方も恐ろしいものです」
「然しこれは小さな歪みにか生みません。効率は悪くなるかと」
「いや、塵も積もれば山となるように、この小さな歪みが大きくなるかもしれんぞ?」
「どちらにしろ、我々は計画を実行するまで」

 クスクスクス。クスクスクス。
 飛び交う声の合間合間に響き渡る嘲笑。それはあらゆる場所から飛び交い、歪んだ音へと変貌する。

「一つ気になるのは、あの少年だ」

 ピタリ、笑い声が止んだ。
 発せられる声以外の音はない。

「あの忌ま忌ましき男に似た少年は、ただの『下人』に過ぎぬ。だが警戒するにこしたことはない」
「以前は馬鹿な駒が間違えてしまったせいで、消すチャンスを逃しましたからね」
「そういえばあの駒はどうなさったのです?」
「消した。所詮捨て駒だからな」

 クスクスクス。クスクスクス。
 止んでいた笑い声が、再び奏でられる。哀れな一人の少年を嘲笑うかのように。

「さあ、『天女』を送り出そう」

20121031
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