――生きた兵器の、ために。 その言葉に恋歌は呆然とし、直ぐに「ふざけないで!」と噛み付いた。 「私は、私はそんなものになるつもりなんかない! それにまだ、死んでない!」 「ははっ、君の実体なんかどうでもいいんだ。『鬼』はなぜか、男の死体からしか生まれないことが判明しているからな」 「はぁ!? ならなんだっていうのよ!」 「――君には、『核』を育ててもらっていたのだよ。その我々が作った体でね」 パンパンパンっと男が三回手を鳴らす。その瞬間、部屋がグニャリと歪んだ。 突然のそれに思わず目を閉じ、恐る恐る開ける。するとそこは先ほどまでの部屋ではなく――白が際立つ、病室だった。 天井近くに立ち、否、浮きながら下を見下ろせば、人工呼吸器を口に着け、細い管を多く体に着けている少女が、ベッドの上で眠っていた。 その少女を見て、恋歌はさっと顔を青ざめる。 「研究は順調に進み、人工的な『鬼』の生み出し方、より強固な力を持つ方法……多くの発見をしてきた。だが、最近邪魔者たちも力をつけ始め、『下人』の確保が難しくなった。ああ、忌々しい……」 少女は、恋歌が良く知る子だった。 ごくごく普通の、どこにでもいるような子。身長の割に少しだけ体重が重いのを気にしていて、勉強は出来る部類には入っても上位には入れない、運動は不得意で、何時も妹の方が優秀なのを気にしている―― 「そこで、君たちのような子に目を付けた。丁度男の実験は終わり、女の活用法を見つける段階に入っていたこともあり、多くの材料を必要としていた。 漫画や小説、アニメの世界を夢と称し、その世界に行くことを望む憐れな少女達に夢を見させ、それと引き換えに我々の実験道具となってもらう――実に、上手くいったよ。君達『天女』は、面白い程周りからの憎しみを集めてくれた」 ――恋歌本人だった。 まだ生きている。しかしそれなら、それを見ている己は一体なんだというのだ?この身体は、この見ている光景は、一体何? 「そうする中で、我々は『疑似死体』の開発に成功した……そう、君の体だよ。その死体はより多くの『憎しみ』を集め、『鬼』の心臓とも言える『核』を作り出す。その『核』を死体が取り込めば、『鬼』が誕生する」 夢が、崩れていく。 夢だと思っていた世界が、恐ろしい物へと変貌していく。 「このシステムを作ってから、非常に簡単になった。部下たちが『天女』の望む夢そっくりな『箱』を見つけ、そこに『天女』を連れていくだけでいい。『天女』はそこを都合のいい夢だと解釈して本性を露わにし、大きな憎しみを作り出していってくれるのだから」 夢では、なかったのか。 あの世界は、あの学園は、あのキャラクター達は。 恋歌の生み出したものではなく、実在した、生きている人間だったと言うのか。 「そんな中、天女君。君は少し異質だった。 多くの天女達と同様夢を見ていたが、彼女達よりも強い理性を持って制御していた。君の望んだあの『箱』もまた、少々守りの力が強かったのもある……だが、君は予想に反しこれまでにない程質のいい『核』を作ってくれた! なによりあの下人達! まさか我々の存在を嗅ぎ付けるとは思ってもいなかった!」 ならば、己はあの学園に。 あの、キャラクターそっくりの少年たちに。 ここまで一緒に連れ攫われてきた、あの少年に。 「土産の子も最高だ! 彼ならばきっと、あの『実験』にも耐えうるだろう!」 ――どれだけの、罪を犯してしまったのだろうか。 2017/02/21 prev 栞を挟む next [目次 表紙 main TOP] |