「兵、器……」

 それも、生きた。
 どことなく戦隊物のような話の展開に、恋歌は忍たまの世界からまた別の世界の夢でも見ているのだろうか、と一瞬思った。
 まだ夢の中と信じたい恋歌を尻目に、支部長がパンと一回手を叩いて鳴らす。

「『生きた兵器』……我々はそれを『鬼』と呼んでいる」

 中央モニターの映像が切り替わり、今度は青年が映った。何重にも鎖で縛られ、顔は布がかぶせられ見えない。
 ただの青年ではない。否、普通の人間のように見えるのだが、頭に生えている二本の角が、人ではないことを物語っている。

「『鬼』は『狭間』で生まれた異質……いや、ゴミだな。人の負の感情、特に憎しみを食べる化け物に過ぎないが、我々をも凌駕する破壊力を持ち、自由に『箱』を行き来することが出来る……何ともムカつく奴らだ」

 初めて支部長が苦々しそうな表情を浮かべた。心底この『鬼』を忌み嫌っているらしく、モニターの映像はプツンと切られる。

「だが、兵器としてはこれ以上ない程心強い。だから私達は、この『鬼』を作っている」
「鬼を、作る……って、作れるの!?」
「質問が多いな、この天女君は。しかし、ここまで我々のしていることに興味を抱く者も珍しい」

 現実逃避も兼ね備えているそれが、支部長には興味として映った様だ。幾分か機嫌を上げ、恋歌をようやくそこにいる存在として認識し、質問に答える。

「『鬼』は突然変異で生まれたゴミだ。多くの憎しみの感情が『人』の死体に乗り移ることで誕生することは分かっているが、そのメカニズムは一切不明。何より、奴らは愚かにも『天上人』を深く憎んでいる……我々の戦いになど、興味すら持っていない」
「さっきの、鬼は?」
「あれは偶然捉えることに成功したまでの、実験道具だ――そのおかげでこの実験が始められたのだから、ゴミと言えども利用価値はあったがな」

 フン、と支部長は鼻で笑い、モニターに向けて両手を広げた。画面に映る少女達を見ながら、恍惚な声をあげる。

「見たまえ、我々の成果を! あと少しで、あと少しで完成を迎える!」
「……どういう、こと?」
「我々は多くの研究を繰り返し、奇妙な発見をしたのだ! 誰も知りえなかった、突然変異の実態を!」

 驚くがいい、と支部長が恋歌を振り向く。

「『鬼』は、『下人』の死体から生まれることが、実験の結果判明したのだ!」
「……はっ?」
「それだけではない! 『箱』の中で生まれた憎しみの方が、より強い『鬼』を生み出す! だからこそ我々は、君たちのような『下人』を使うことにしたのだ!
 ――天女君、君は我々の『生きた兵器』のために、生まれてきたのだよ!」

2017/02/21
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