伸一郎が大きく跳躍し、男目掛けて苦無を振り下ろす。それは男に当たることなく、間に入った女の鉄扇によって妨げられた。 その女が何度も会っていた、例の花を育てていた女だと気付いた伸一郎は「てめぇ」と声を荒げる。 「話が違うだろ! よりにもよって、俺の幼馴染に手を出しやがって!」 「あら、学園には手を出していないでしょう? 安心して頂戴、もう皆の洗脳は解いているわよ」 「学園なんてどうだっていい! よくも、よくも文次郎を!」 「ごめんなさいねぇ。でも手土産なしには戻り辛いのよ――だから、見逃して頂戴?」 フフッと女が悪戯っ子のような笑みを浮かべた次の瞬間、伸一郎は腹に大きな衝撃を受けた。 目に見えない大きな塊みたいなものが襲い掛かり、地面へと吹き飛ばされる。押された勢いで胃液が飛び出し、ゴホッと伸一郎は呻いた。 何が起きたのか分からない。それでも立ち上がろうと支える腕に力を込めようとし――上からの強い衝撃に、地面へと縫い付けられた。 バキッ、バキッと音を立てて地面がめり込み、伸一郎の体が押し潰される。手足を動かすことさえ出来ないその強い衝撃に、伸一郎は息をするのも忘れていた。 「フフッ、良かったわ。この力は、ちゃんと貴方にも通じるみたいね」 何も、無い。身体を潰している物は、何もない。それでも地面は下へとめり込み、伸一郎の体も押されている。 声も出せない、息を吸うのもままならない。ただただ圧倒的なそれに伸一郎は――声にならない絶叫をあげた。 (なめんじゃ、ねぇぇえええ!) きちんとした発話にならない、それでも声を上げ、戦う意思を見せる。 力を振り絞り腕に力を入れ、押し潰してくる力に抵抗し。 (文次郎、文次郎……っ!!) その先にいる、大切な幼馴染を取り戻そうと、腕を上げようとして。 「――楽しかったわよ、貴方と遊べて。また機会があれば、会いましょう?」 地面から数センチ離れた所で、男と女は、伸一郎の前から消えた。 文字通り、今までそこに存在しなかった様に、目の前から。 ――文次郎と、一緒に。 2017/02/15 prev 栞を挟む next [目次 表紙 main TOP] ![]() |