「天女様、もうすぐ夢の終わりが来ますわ」
「えっ?」

 身の回りの世話をしてくれる女の言葉に、恋歌は目を丸くした。
 尽きることのない愛情への欲求は、満たされることを知らない。まだまだこれからと思っている時にそのようなことを言われれば、気が削がれてしまう。
 否、何故この女が、ここが恋歌の夢だと知っているのだろうか。

「あの皿は、道を塞ぐ封印具。壊してはいけないと忠告されていたにも関わらず、貴方はまんまと壊された。そしてあの子が再び道を見つけ――フフッ、夢は終わりを告げる」

 スルリ、と女の手が恋歌の頬を撫でる。
 一体何を言っているのか、そう問いかけようとした恋歌は、しかし襲ってきた眩暈に言葉を失った。グラグラと揺らぐ世界に頭を押さえて蹲る。

「天国から地獄へ。地獄から天国へ――貴方の役目も、もうすぐ終わり。そして貴方は――となる」

 ポンッと、背中を押される。その強さに蹲ったまま前に倒れそうになり、力強い腕に支えられた。

「大丈夫か、恋歌!?」
「留三郎……」

 耳に心地よい声に顔をあげれば、大好きなキャラクターがそこにいた。心配そうに覗き込んでくる彼にホッと息を吐き、何でもないと首を横に振る。

「ちょっと眩暈がしただけ。ごめんね、心配かけて」
「伊作に診てもらうか?」
「本当に大丈夫だから! それよりも、皆と一緒にいたいな」

 ああ、そうだ。眩暈なんて何時もの事。それよりも大好きな世界で大好きなキャラクターに愛されていたい。
 夢が終わると告げた女の声も、否、先ほどまで女がいたことも綺麗に頭の中から抜け落ちた恋歌は、どろりとした笑みを浮かべて留三郎の腕に絡みつく。

 終わりなど来ない。
 ここは、恋歌の夢の世界なのだから。

 恋歌が目を覚まさない限り、夢はどこまでも続く。
 続くと――信じていた。

2017/02/06
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