「よく気付いたな、伊賀崎。偉いぞ!」

 わしゃわしゃと孫兵の頭を撫でて文次郎は褒め称える。孫兵は嬉しそうにし、伸一郎はつまらないと唇を尖らせた。

「今分かっている情報を整理すると、だ。

 学園は今現在『匂い』を元にした力によって支配されている。恐らくそれは、記憶操作も出来る。俺や伸一郎の記憶を封じ込んだのもこれだ。
 先生たちや他の生徒たち、俺達の間で何故支配される影響力に違いが出たのかは分からない。ここは聞き出すしかないだろう。

 次に、仙蔵たちを操っているのは『色狂い花』。これは俺も何かしら操られていた可能性がある。唯一伸一郎だけが、その影響下に置かれていなかった。

 ――そして、その『力』を使っている奴らは、俺達の事を逐一見ている。俺を『匂いの力』から解放……元に戻したのも、俺が『色狂い花』を解毒したからなんだろうな」

 文次郎の言葉に、ふむふむと伸一郎は頷く。しかし、やはり分からない所があり首を傾げる。

「でもなんでそんな面倒なことしたんだろうな。なんか本当に『物語』を意識しているみてぇで気持ち悪い」
「物語?」

 今度は文次郎と孫兵がシンクロした。伸一郎はだからさ、と身振り手振りで説明する。

「ようは俺達の今までって、まとめるとこうなるだろ?

 突如天女と呼ばれる少女が学園にやってきて、色んな人達を虜にしている。けれど、少女が特に目を付けている生徒たちは見向きもしない。
 天女はそのことに腹を立て、その生徒たちの心を操って手に入れた。そのことに、天女の虜にならず、目も付けられなかった生徒たちが一丸となって助けようと動く。
 努力の甲斐あり、天女の力から解放する手段を見つけた生徒たち。心を操られていた生徒たちは元に戻り、虜になっていた人達も我に返り、天女は絶体絶命の状態。味方は誰もいず、周りは敵だらけ。
 ――こうして天女は学園から去り、また平和が戻ってきました、とさ。

 ほら、安易なハッピーエンドの物語の完成……ってね」

 肩をすくめて見せると、二人はおおと感心して見せた。

「我に返る、か……確かに俺もそんな感じだったな」
「松平先輩、意外にそれが目的かもしれませんよ?」
「俺達を役者にして、高みの見物という訳か」
「止めてくれよー。もしそうだったら俺、殴りかかる自信しかない」

 あざ笑う女の顔が脳裏に浮かび、顔をしかめっ面にする。もしも本当にこのような物語を見る為にこのような面倒なことをしてくれたのだとしたら、何発殴っても気は済まない。

「まぁ、流石にそれが目的という訳ではないだろう。何かしらの目的がって学園を混乱に陥らせ、用が済んだから元通りにした、と考えるのが筋だろうな」
「じゃあこれが一段落ついても、まだ警戒は解けないのかー。やだやだ面倒!」
「松平先輩、一段落ついたらぜひ生物委員会に!」
「そっちの方が面倒だからやだ!」
「お前なぁ……」

 ベーと舌を出す伸一郎に、孫兵は声を上げて笑い、文次郎も呆れたように苦笑する。和やかな空気が漂った時、ガウとカミュが一鳴きした。それに文次郎が我に返り、そうだったなと気を引き締める。

「よし、俺で洗脳は解けると判明した。次は仙蔵たちの番だ」
「はーい、文ちゃん。提案がありまーす」
「どうぞ」
「どうせ向こうさんには見られているんだし、コソコソしないで、いっちょパーッと派手にやりません?」

 ニシシと悪戯っ子な笑みを浮かべる。
 頭にクエスチョンマークを浮かべる二人に、伸一郎はひそひそと作戦を告げた。

2017/02/06
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