「これが例の、根っこ入り饅頭ですか」 夜になり伸一郎の部屋――すっかり集会場になっている――に集まった三年生と文次郎、伸一郎で、三個の饅頭を囲む。うち一個は懐紙に包まれているが、うち二個は空気にさらされており、悍ましい色と雰囲気、そして匂いを発している。 孫兵が鼻を手でつまみ、数馬が恐ろしい物を見る目で饅頭を凝視している。一方作兵衛は興味津々といった様子だ。左門と三之助、藤内は余りの臭さに失神しかけている。 「でもなんで二個だけなんですか?」 「本当に効果があるか確かめるためになのと、」 「余りの匂いに食堂から追い出された」 「でしょうね……」 なんとか持ちこたえた藤内が鼻を抑えながら小声で同意する。だが、これでもましな方なのだと声高々に主張したい。煎じている時の方が本当に匂いはきつかったのだ、と。 「で、こっちの饅頭は?」 「ああこれ、蜜入り饅頭」 「……はい?」 「例の蜜入り饅頭だ」 伸一郎と文次郎の二人掛かりで答えると、三年生は一同揃って後ろにのけぞった。左門と三之助は口から魂が出ており、奇跡の迷子を発揮しようとしている。 「なんでそんなものが!?」 「文ちゃんにあげようと取っていたのをついうっかり忘れててさー」 あはは、と笑いながら思い出すのはこの饅頭を受け取った時。あの時余りのまずさに部屋に帰って直ぐ戸棚の中に仕舞いこんだのだが、それが功を制した。勿論食べることはしないが、これを調べることで何かわかるかもしれない。 迷子係の作兵衛が手慣れた様子で魂二個を捕獲し、身体に戻しているのを見ながら、文次郎はそれでと話を元に戻す。 「明日、俺と伸一郎はこれを食べようと思う」 「今日はマジ勘弁して。匂いだけで腹いっぱいなのよ」 「明日ですか……大丈夫なんすか?」 「正直何が起きるか分からない。だから明日、伊賀崎には俺達と一緒に居てもらおうと思う」 「僕、ですか?」 名前を呼ばれたことで、孫兵はきょとんとした。他の五人はどうして自分じゃないのかと言いたげな表情を浮かべている。 「常識の範囲外での出来事が立て続けに起きているからな。ならばこちらも、常識外から攻めていこうと伸一郎と話し合ったんだ」 「んで、俺達の常識外は、今生物小屋にいるあのお方だってことになって」 「――ああ、なるほど! 確かに常識外!」 思い至る存在に、孫兵は納得の声を上げた。訳の分からない他の五人にはまた明日説明すると約束し、文次郎が気持ちを引き締める。 「明日が正念場だ。どちらに転ぼうとも、俺達は前に進む……いいな?」 「はい!」 2017/02/05 prev 栞を挟む next [目次 表紙 main TOP] |