「お人形ってさ、やっぱりあの天女人間じゃないんじゃねえの?」
「否定したいが否定できないな」

 グツグツと煮え込む鍋の中は、悍ましい色で満たされている。しっかりと口と鼻を布で覆い、割烹着を着て煮込んでいる伸一郎は、ほらねと同じ格好をして隣にいる文次郎に得意げに胸を張った。

「やっぱりあの時からそう仮定しとけばよかったんだって」
「そして余計な混乱を招くと」
「……俺達の間だけ、にしておく」
「それが無難だったな」

 お玉を回し、時折逆回転させ。万遍なく火が通る様気を付けながらも、伸一郎は布の下で呻く。

「にしてもこの根っこ、めっちゃ臭くねぇ!? 俺鼻曲がりそうなんだけど!」

 煎じているのは、伸一郎がいつの間にか持ってきていた色狂い花の根っこ。記憶は話している所で終わっているが、無事持って帰って来られたらしい。
 直ぐに文次郎がいる自室へと向かい、三年生も呼び出して経緯を説明し、次の日早速二人は食堂を借り、根っこを煎じている。三年生は念のために天女たちを見張っている為今ここにはいない。

「もうやだ文ちゃん選手交代!」
「まだ交代時間じゃない」
「俺こういうの苦手なんですけどー!」
「励め」
「文ちゃん冷たい……」
「それよりも、『もう終わった』が気になるな」

 伸一郎を無視して考え込む文次郎に、内心涙目になる。扱いが雑だと喚きたいが、そうして更に冷たい対応を取られれば心が折れる自信しかない。

「この学園で何をしていたのか……普通に考えれば学園の情報収集だが、もしそうなら、学園を潰していかないのも気になる」
「なぁんかそんな感じじゃなかったけどな、あのお姉さん。走り回る俺達を見て楽しんでるって感じはしたけど」
「天女もその女の言葉を信じれば、人形……使い勝手のいい駒扱い、ということになるな」
「利用するだけして後はポイッ、とか女に嫌われるぜー」
「それに、全てに同じ力が働いている訳ではなさそうだ」
「俺もそう思う。少なくとも先生たちと立花達以外の生徒には同じ力が働いているかもしれねぇけど、立花達だけは『色狂い花』だろうな」
「仙蔵たちを助けたのを見計らい、洗脳を解く、と言っていたんだな?」
「大体そんなニュアンス」

 詳しく言えば「学園を元に戻す」だが、洗脳で間違いないだろう。妙にハッピーエンドに拘っていた女の言葉を鵜呑みにはしたくないが、信じるしか進める道がない。

「問題は、」
「どうやってこれ入りの饅頭を食わせるか、か」

 何より、一番の壁が目の前に立ち塞がっている。
 鍋の中はお世辞にも食欲をそそるとは言えない、寧ろ食欲を根こそぎ奪う程に悍ましい色をしている。これを饅頭に混ぜるとはいえ、素直に彼らが食べてくれるだろうか。
 寝こみでも襲う? と冗談交じりに聞くと、文次郎はそれもありかもしれねぇなぁ、と遠い目をしながら答えた。

2017/02/05
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