【第六章】


「どうやって見つければいいのでしょうか、私には見当もつきません」

 部屋から蹴り追い出された伸一郎は、徐々に傾き姿を消している太陽を見ながらただ突っ立っていた。
 文次郎の気持ちは分かる。なぜなら例の花を見たのは伸一郎だけなのだから。あの話を妄想だと一蹴しなかったのは、彼が伸一郎を信じているからに他ならない。
 その気持ちに答えたいとは思う。だが、本当に行き方が分からないのだ。前二回は偶然の産物、三回目もあるかどうか全く見当もつかない。
 どうしようかと悩んでいると、子どもの甲高い悲鳴のようなものが聞こえた。切羽詰まったものではなかったが、何となく気になりそちらへと足を向ける。

「ごめんなさい、天女様!」
「大丈夫だから気にしないで、大したものじゃないし」
「気を付けるんだよ、乱太郎」

 曲がり角からひょっこり顔をのぞかせると、ぺこぺこと頭を下げる乱太郎の姿があった。彼を叱るように伊作が腰に手を当てて顔をしかめっ面にさせており、その隣で天女がまぁまぁと苦笑を浮かべて宥めている。
 何事かと思っていると、乱太郎と伊作の間で散らばっている皿の破片に気付いた。少し離れた所にバレーボールが転がっている。あれが部屋に入り、皿を壊したのだろう。

(あれ? あの皿確か、食堂で使っている……)

 パチパチと数回瞬きをし、ふと伸一郎は思いついた。
 ゴソゴソと懐を探り、煙幕弾を取り出す。悪戯目的で作成した物のため、身体に直接害はない。多少くしゃみが止まらなくなるが。
 ポンッと軽く放り投げれば、綺麗な弧を描き乱太郎と伊作の間に落ちた。えっと二人が目を丸くした瞬間、煙幕弾は破裂し二人を襲う――天女は偶々部屋の方に戻ったため、巻き込まれなかった。

「えっ、何!?」
「ハックション!」

 突然の事に二人が戸惑っているのを見計らい、伸一郎はしっかりと布で顔を覆った後その中に突撃した。素早く皿を回収し、気付かれないうちに屋根の上へと移動する。

「忍務完了、ってね」

 天女がどうしたの、と慌てて飛び出す気配を感じながら、伸一郎は素早くそこから離れた。布でくるんだ皿が重い。しかもその重みは、皿以外にも何かあるように感じる。
 天女が部屋に飾っていた皿。もしかしたら何か秘密があるかもしれない。そう考える伸一郎の鼻を、香のように甘い匂いがくすぐった。

2017/02/05
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