「あらまぁ、まさか辿り着くなんて思わなかったわ」 薄らに光り輝く鏡。そこに映るのは、無理だと叫ぶ伸一郎とそれを一括する文次郎の姿。 鏡を通してみていた女は頬に手を当て驚いた後、にっこりと嬉しそうな笑みを浮かべる。 「でも、嬉しいわ。これで円満に解決することが出来るわね」 「天女にとってはまさに天国から地獄、という訳ですか」 「ンフフ、時間をかけてじっくり育てた甲斐があったわぁ。お陰様で、必要なもの全部揃ったもの」 「こちらも上々。後は手土産だけですね」 「あら、この子は駄目よ? 可愛いお花たちの力が効かない、珍しい体質の子なんだから」 「その子でなく、例の子ですよ」 「……例の、鬼の子ね」 「ええ、そちらです。彼を手土産にした方が、より強く大きいものが手に入りそうなので」 「そうね。今鬼の子は、学園の希望なんですから」 フフッと女性は口を押えてにやつく口元を隠し、鏡を覗き込む。 そこにはこちらの思惑通りに、そして少し予想外の事もしてくれた、鬼の子――文次郎の姿がある。伸一郎は部屋から追い出されたのだろうか、彼一人だけだ。 「地獄から更に地獄へ。その時貴方のお気に入りは、どう動くのでしょうね?」 「きっと楽しませてくれるに違いないわ。そうでなくては、つまらないもの」 そっと、鏡に手を触れる。 指の先で文次郎は胸を抑え、荒い息を繰り返していた。その姿を愛しそうになぞり、潰すように押す。 「鬼の子を失った時の憎しみ――ああ、楽しみだわ!」 2017/02/05 prev 栞を挟む next [目次 表紙 main TOP] ![]() |