「――だろうな。間違いなく天女の仲間か、それに近い奴らがいるだろう」
「へっ?」
「そこまでは、俺も考えてはいた」

 思わぬ返答に伸一郎は虚を突かれ、だが直ぐに納得した。己でも考え付くことを、この幼馴染が考え付かない訳がない。
 文次郎は一度視線を左右に泳がせた後、伸一郎に向けて止めた。何かを訴えているそれに伸一郎は首を傾げ、文次郎は何でもないと言わんばかりに首を横に振る。

「俺がそのことに気付いたのは、学園の外に出て利吉さんと会ったのがきっかけだ」
「客観的に学園を見ることが出来たから、ってか?」
「それもある。もう一つ、俺は仙蔵たちを庇うことによって、結果的にほとんど毎日あいつの行動を把握していた」
「ほうほう」
「あいつは一日の殆どを仙蔵たちを追いかけ回すことに使い、身の回りの世話も誰かにやらせているから、一人になる時間は殆ど無い。稀にできても、誰かしらがその姿を見ている」
「ほう」
「……つまり、俺もお前の言う、力を使う瞬間を見たことがない。この学園を取り囲む不思議な力を、ここまで長く維持するための行動も」

 文次郎らしい観点からの気付きである。そう伸一郎は純粋に感心した。あの騒ぎの中倒れそうになりながらも冷静に天女を観察していたことに、尊敬の念すら浮かぶ。

「――だが、お前の方が一足早かったようだな」
「おう?」
「甘く見るなよ……お前がそのことに気付けたのは、結果となることを知ったからだろう?」

 そして、己の話からそこまでたどり着いていたことにも脱帽だ。
 バレてらぁ、と伸一郎が顔を引きつらせると、文次郎は深く息を吐いた。

「結論から話さなかったのは、お前がそのことを話すと俺に怒られると思っているから。そうでなければお前は結論からきっぱりと入ることで自己主張をする」
「えっ、そうなの?」
「まだある。お前は順序良く物事を組み立てて結論に導くのが苦手だ。点と点を結びつけるのが不得意、とも言えるな。だが逆に、結果からそこに至るまでの過程を導きだし結びつけるのは得意だ」
「……ええと、」
「逆算的思考のお前が、一から順に説明する――つまり、良くない結果を知ってしまった、ということになる」
「わはは……恐れ入りました」

 流れるような動きで土下座をする。
 己自身も気付いていない癖に気付いているとは、流石幼馴染。現実逃避で頭の中で立花に「文ちゃんすごくね!? 俺のこと超良く見てくれてるでしょ!」と自慢する。現実ですれば拳骨が飛んでくるだろう。

「で、お前は何を知ったんだ?」
「……これを見てください」

 最早恐怖の余り言葉は出そうにない。ササッと文次郎の前に開かれた一冊の書物を出すと、「ここまで来て先延ばしにするか」と呆れながら手に取った。

「『色狂い花』? 聞いたことがない花だな」
「『幻想植物図鑑』第百七十七項。遥か昔南蛮で『傀儡の術』で使用されていたとされる、今はもう存在するかどうか分からない、幻とも言われる危険性の高い植物です」
「……効果は、」
「その匂いは人の思考を狂わせ、零れ落ちる蜜を飲めば忽ち傀儡と化する――主に恋沙汰で使用されていたことから付いた名が、『色狂い花』」
「……意中の者を虜にする、媚薬、惚れ薬のようなものか。それで、この実在するか分からないような胡散臭い花がどうした?」
「……察してよぉ」
「察したらいけないと頭の中で警報が鳴り響いている」

 上目づかいで様子を窺えば、文次郎の顔は引きつっていた。
 最後まで言わずとも察してしまったのだろう。それでもはっきりとした言葉を聞かない限り信じたくない、といった所か。
 気持ちは分からくもないので、伸一郎は一歩処刑台に登る。

「――その花育てている人と、この学園で会いました! あとなんか蜜を使ったお菓子がどうのこうの言われて、『饅頭』とか答えた気がします! これヤバくね!?」
「――ヤバいどころじゃないだろ……!」

 想像以上だったのか崩れ落ちた文次郎に、伸一郎はテヘッとごまかし笑いを浮かべる。
 まだ刑は執行されないらしい。

2017/02/05
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