【第零話】 「そういやお前、何で俺のこと観察してたんだ?」 「……おおう、すっかり忘れてた」 二人で訪れた甘味処の新作を頬張っている時、ふと文次郎が忘れていたことを指摘した。 伸一郎は口の中に含んでいたのを飲み込み、あのなと話す。 「文ちゃんが謂れのない誤解を受けても平気そうな顔をしている訳を考えてたんだ」 「何だそれ」 「言葉通りの意味」 口の中が渇いたのでお茶を飲み潤す。猫舌の文次郎でも飲める熱さだが、果たして文次郎のお茶もこれ位だろうか。 「で、答えは見つかったのか?」 「それどころじゃなかった」 「……それもそうだな」 文次郎が湯呑みに口を付け、顔をしかめた。どうやら熱かったらしい。己のを差し出すと無言で受け取られた。ついでに文次郎のも受け取る。 「なあ、なんでだ?」 「分かんねえのか?」 「じゃねえと聞かねえよ」 文次郎のを飲むと少し熱かった。だが火傷する程ではない。 熱さに慣れる鍛練でもした方がいいのではないかと思う。その度に火傷されても困るが。 「お前がいるからだ」 「うん?」 「お前が俺を理解している。だからそれでいい」 ボソッと小声で言い、お茶を飲んだ。 伸一郎はキョトンとし、へえと口角を上げる。 「やっと分かった」 「気付かんかバカタレ」 「今度からそうする」 「ああ、そうしてくれ」 「でも俺馬鹿だからさ、たまには文ちゃんから言ってくれよ」 「……気が向いたらな」 「おう」 遠くから子供の笑い声が響いてくる。それに混じり聞き覚えのある声が聞こえてきた。留三郎達か、と文次郎が呟いたのでそうなのだろう。 前ならこの時点でどちらかが立ち上がり別行動を取っていたが、今はそうしない。二人並んでのんびりと甘味を味わい楽しむ。 「俺達が幼馴染みだって知ってんの、どれだけいるんだろうな」 「俺が知る限り、先生方と仙蔵だけだな」 「……何で立花が?」 「六年間同室なんだ、当然だろ」 言われ、それもそうだと納得する。今まで仙蔵が見て見ぬ振りをしていたのは知っていたからか、と今更ながらに気付いた。 「文ちゃん、俺が忍務に行く前に言った言葉、覚えてっか?」 「ああ、あの意味不明なやつな」 「あれ、ちょっと言葉抜けてたみたいだ」 「ほお、言ってみろよ」 ニヤッと笑い促す文次郎に、同じようにニヤリと返す。お互い何を言おうとしているのか、もう分かっていた。 伸一郎はゆっくりと口を開く。もうそこに、躊躇いはない。 「学園でも俺の幼馴染みに、なってください」 20121030 prev 栞を挟む [目次 表紙 main TOP] ![]() |