「どうする? まだもう少しここで休むかい?」 「そうしましょうか、今日は誰もいませんし」 最早条件反射の域で女の声色でそう賛成した文次郎は、開きたくなる足を我慢しつつニッコリと利吉に笑いかけた。文次郎の言葉に利吉も「そうだね」と相槌を打つ。 「そっちの様子はどうだい?」 「相変わらずですよ。今日も何も変わっていません」 さりげない言葉を装いながら、その意味は深く。文次郎が何を言いたいのか悟った利吉は何かを考え込むようにして顎に手を当てた。 (利吉さんの方も手掛かりなし、か……) 見るからに難しい雰囲気なそれに、文次郎は息を吐くのを堪える。 文次郎がこうして利吉と『外』で会っているのは、三年生に学園を任せて調査をしに町に降りた日に利吉と遭遇したからである。 利吉もまた、文次郎達と同じく『学園』の異変に気付いている一人であった。理由は何時ものように母からあずかった父の着替えを渡しに行こうとし、だが学園にたどり着くことが出来なかったからである。 父繋がりで何度か足を運んでいる学園まで、例え暗闇であろうと間違えることなく行くことが出来る。然しその日、利吉が学園に辿り着くことは無かった、否、出来なかった。 まるで幻術がかけられているかのように、進んでも進んでも同じ場所に戻ってしまうらしい。 それで学園に何か問題が起きていると悟った利吉は学園に入る方法と探しており、解決策を探しに来た文次郎と偶然搗ち合ったのだ。 (この分だと、他の方達も何も掴めていないだろうな……) 利吉から話を聞いた文次郎は、直ぐさま学園と縁のある者達の所を訪れた。その者達も同じく学園に入れず困っており、文次郎は事の重大さを改めて実感した。 一先ず物資は文次郎が預かり持ち帰り、現状を学園長に報告したのだが簡単に流されてしまった。そればかりか何もするなとの命令をされてしまい、見張りをつけられてしまう始末。 初めは見張り役を撒いたりと命令に逆らい利吉達と情報を交換しあっていたのだが、段々と見張り役を撒くことが難しくなってきた為、文次郎は女装をして目を晦ますことにした。効果は覿面で、学園を出てからも見張り役に付けられている様子はない。 (今日こそは何か手掛かりを掴めればいいが……) 外に出れば出るほど浮かび上がる不審点。そもそもなぜ利吉達のように学園に住んでいない者達が学園に入れないのか、己のように学園に住む者だけが出入りが出来るのか。その謎もまだ分かっていない。 「おふみちゃん、先生達の様子を詳しく教えてくれないかい?」 「ええ、勿論」 最早忍たまだけの問題で無くなった、それを解決しなければならないという重圧感。肩に重くのしかかるそれに、文次郎は利吉とこうして情報を交換出来て良かったと思う。 以前と変わらない、相変わらずの傍観体勢である教師達を思い出しながら、文次郎は利吉に語ってみせた。 20130601 prev 栞を挟む next [目次 表紙 main TOP] ![]() |