※無自覚にいちゃつく男主と文次郎にどうにかして一般的な幼馴染みの常識を教えようとする六年生


 今度の実習の作戦会議の為、文次郎と仙蔵の部屋に集まっていた何時もの六人の耳に、上級生のものと思われる足音と叫び声が聞こえた。

「文ちゃん文ちゃん文ちゃーんっ!」
「足音を発てるなバカタレ!」
「ごめんなさい以後気を付けるからへるぷみー!」

 ドタバタと足音を発てて部屋に入ってきたのは、文次郎の幼馴染みである伸一郎だった。伸一郎はそのままの勢いで文次郎に飛び付き、己よりも大きな身体を支えきれなかった文次郎と共に倒れ込む。
 それに、仙蔵が見ていられないという風に手で目を被い、伊作が苦笑いを、小平太と長次は目を丸くし、留三郎はギョッとして腰を浮かした。
 それらを一切意に介せず、伸一郎は身体を起こして馬乗りになり、文次郎の顔を覗き込む。

「マズイんだよ文ちゃん俺の息子のピンチ!」
「下の話は好きじゃないんだが」
「下じゃないんだってマジで俺去勢されるかもしんないんだって!」
「されれば?」
「文ちゃん酷い」

 一刀両断され、伸一郎は膨れっ面を浮かべた。
 「退け」と文次郎が伸一郎を上から退かし身体を起こすと、代わりにベッタリと背中に張り付き、グリグリと肩に頭を押し付ける。
 それに対する文次郎の反応は乏しく、そのままにしたまま慣れた様子で訳を聞く。

「何があったんだ?」
「女装の補習で伝子さんに『女らしくしなさい』って言われたから、『私男だから無理ですぅ』って反論したらすっげー怒られて、『次の再試験で落ちたら去勢するわよ』って……」
「お前よく伝子さんに反論出来たな」
「女装している時の俺の怖いもの知らずをナメんなよ」
「普段からだろうが」

 伸一郎が両腕を前に回すと、文次郎はその手に手を絡ませた。指遊びをするかのように、折ったり伸ばしたりしながら「それで?」と続きを促す。

「俺に何をしろと?」
「おふみちゃんになって伝子さんを宥めてください」
「せめて女装の鍛練に付き合え位言ってほしかった」

 予想はしていたのか、文次郎は怒りではなく呆れの表情を浮かべた。
 そのまま伸一郎は絡めていた手を外して腰に巻き付け、肩に顎を乗せて「おーねーがーい」と強請ってきた。それに「いーやーだー」と同じ調子で返され「ぅえー?」と不満げな声を上げる。
 全く困っていない、寧ろじゃれ合っている風にしか見えない二人に、小平太が動いた。

「引っ付き虫ごっこか? 楽しそうだから私も混ぜるぞ!」
「うおっ!?」

 遊んでいると勘違いし、文次郎の正面に飛び付く。後ろと前から挟まれる形になった文次郎は、小平太を押し返そうとし、だが「……もそ」と横からの衝撃に倒れ込んだ。

「長次!?」
「……私も混ざろうかと……」

 今度はある意味空気を読んだ長次が、伸一郎と小平太も抱き抱える様にして横から飛び付いてきた。
 三方向から押し潰される形になった文次郎は流石に苦しいのか呻き、長次と小平太を押し返す。

「退いてくれ、重い」

 押し返された小平太と長次は、プクッと頬を膨らませて不満を訴えてる。

「松平はいいのに、私達は駄目なのか?」
「……贔屓は良くない……」
「バカタレ、これは幼馴染みだからいいんだよ」
「私達だって友達だぞ!」
「こいつは家族寄りだ!」
「……私達も六年間同じ学び舎で暮らし、同じ窯の飯を食べた仲……第二の家族だと思っている……」
「だーかーらーっ!」

 分かれよ、とプクッと頬を膨らます文次郎。プクプクと頬を膨らませる三人に、文次郎に張り付いたままの伸一郎はどこかホッコリした気持ちになった。
 そんな中、静観を決め込んでいた仙蔵が「その通りだ!」と立ち上がる。

「全く以って長次と小平太の言う通りだぞ、文次郎! お前は『幼馴染み』を誤解している!」
「いや、そこまでは言ってねえぞ?」
「松平、貴様に対する折檻はこの後でにしてやろう」
「ツッコんだだけでそこまで!?」
「違う、私達の話し合いを邪魔したことに対してだ」
「……すんません」

 勢い良く立ち上がった割に冷静だった仙蔵に、伸一郎は大人しく引き下がった。
 文次郎の背中に隠れる様にして身を縮こませる伸一郎を一瞥し、仙蔵が重々しく口を開く。

「文次郎、何度と無く言ってきたが、また言わせてもらおう――お前達の『幼馴染み意識』は異常だ」
「ちょっ、仙蔵!」
「そこまでハッキリ言わなくてもいいんじゃねえのか!?」

 言い繕うことなくハッキリとしたそれに、若干流れに付いていけず黙っているしか出来なかった伊作と留三郎が声を荒げた。だが仙蔵はそれを一瞥を以って黙らせる。
 異常と断言された文次郎は、それに怒ることなく困ったように目を伏せた。頬を掻き、視線をさ迷わせる。

「悪い仙蔵、やっぱり俺はどこが異常なのか分からないんだ」
「――今のように背中に張り付いたりしているのも含め、膝枕に添い寝、食べさせあいっこや男同士で手を繋ぐ、その他諸々お前達のやることなすことが異常なのだと、散々言ってきただろう!」
「そうなのか?」
「さあ?」

 文次郎の問い掛けに伸一郎は分からんと首を横に振った。
 明らかに常識を越えていると云うのに全く分かっていない二人に、伊作と留三郎がひっくり返り、仙蔵の眉間に皺が寄る。

「お前達は……っ!」

 おどろおどろしい空気が仙蔵を包み込む。それに気付いた文次郎が慌てて宥めようとも、既に時遅し。
 一番の被害者であろう仙蔵の雷が二人に落とされた。


「うわー……」

 部屋の隅に避難し眺めていた伊作は、何で怒られているのかサッパリ分かっていない二人の様子に引き攣り笑いを浮かべた。
 飽きた小平太が「バレーしてくる」と、委員会の仕事を思い出した留三郎が部屋を出て行っている為、その声を聞いたのは長次しかいない。
 長次は伊作の様に引いた様子を見せず、だが何と無く羨ましそうに二人を見ている。

「ちょっと、いやかなり意外だったよ。文次郎が松平にあそこまで気を許していたなんて」
「……文次郎にとって松平は、『甘えられる存在』なのだろう……」
「えっ、どういうことだい?」

 意味が理解出来ず聞き返す伊作に、だが長次は首を横に振り「……私達は『友』止まりか……」とポツリと呟いた。

20130509 ちぃ様へ
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