※ネタ帳の現代異能パロ設定。ややグロ表現有り


「また燃やしているのかい?」

 チリチリと燃え上がる人形をただボーッと眺めていた伸一郎は、ノックもせず部屋に入って来た部下に視線を寄越さず「文句あんのか?」と聞き返した。部下は肩を竦め何も言わず、伸一郎に紙の束を渡す。

「はい、頼まれていた物。一応上にはごまかしておいたけど、時間の問題だからね」
「ん、悪い」
「悪いと思っているなら給料上げて欲しいな」
「それはボスに頼め」
「僕の上司は君なんだけど」

 飄々とした顔で宣う部下に、伸一郎は沈黙を持って返す。
 この己を上司とも思っていないような部下の態度には慣れていた。元々この関係になる前は患者と医者という関係だったので、まだそれを引きずっているからかもしれない。
 伸一郎は燃やしていた人形を手で掴んだ。火は自身の力によるものなので火傷することはない。
 喉の部分を強く押すと、クテンと人形の首があらぬ方に折れた。そのまま押し続けると、ブチッと音を立てて布が破け中に食い込む。
 伸一郎は表情を変えないまま、ズブズブと人形の中に指を進めていった。まるで首をもぎ取ろうとしているそれを、部下がやんわりと止める。

「松平、そろそろ休憩に入ろうか」
「……そうだな、疲れたし」

 伸一郎はあっさりと人形を手放した。ポトリと落ちた人形からボッと火が燃え上がり、見る見る間に灰になっていく。
 部下はそれを悩ましげな目で見届け、息を吐いた。既に人形のことなど忘れ部屋を出ていく伸一郎の背中を見つめ、目を細める。

「何て可哀相な人なんだろうね、君は」

 呟いた声は、伸一郎に届くことはない。
 部下は人形の灰をかき集め、ごみ箱に捨てた。その中は灰で埋め尽くされており、普段から伸一郎が人形を燃やしていることが窺える。
 部下は自分が持ってきた資料を一瞥した。それには、とある男についての情報が事細かく載っている。

「可哀相に」

 人形は、その男だった。伸一郎は男に見立てた人形を燃やす、そしてふと我に返りそのことに涙を流す。
 部下はそれを側で見守っていた。今のように部下と上司の関係になる前から、伸一郎が己が勤めていた病院に通うようになってからずっと、この患者と向き合ってきた。

「可哀相に」

 部下はもう一度呟き、心を落ち着かせようと目を閉じた。
 部屋の外から己の名を呼ぶ声が聞こえて来る。己が異能に目覚めたと知るな否や、こうして新たな居場所を与えてくれた、患者の声が。

「伊作、紅茶入れてくれー」
「自分でいれなよ、それ位」

 まだ我に返る様子はない伸一郎に、部下――善法寺伊作は無意識に安堵の息を吐き、部屋を出る。
 誰もいなくなった部屋の中、無造作に置き捨てられた資料の上にポトリと、壁に飾られた人形の一体が落ちた。

20130222 muk様へ
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