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魔法の手


 工藤邸の家政夫になるということは、いずれ工藤新一の身に起きた不可思議な現象、もとい真実が明らかになるという事でもある。
 新一は文次郎が正式な家政夫として来た日の夜、その真実を自らの口から語った。両親や灰原がメールで自分たちから伝えると言ってきたのだが、自分で伝えたいからと丁重に断った。
 文次郎は自分の口で真実を――誰にも知られたくなかったであろう秘密を明かしてくれた。ならば新一もそれに応えるのが筋というものだ。何よりも、真実を知った時文次郎がどんな反応をするかこの目で見たかった。
「なるほど、どうりでお前が時々小学生に見えてくるわけだ」
 ――見たかったのだが、この反応は予想していなかった。
 対して驚くことなく寧ろ納得している文次郎に新一は複雑な表情を浮かべる。信じてくれたのは嬉しいが、納得の仕方がいただけない。
「なんでそんなに簡単に信じられるんだよ」
「嘘なのか?」
「そうじゃないけどさ……でも、子どもになるなんて常識じゃ考えられないだろ?」
「生憎だが、俺の周りは非常識で溢れ返っている」
 その中に己は含まれていないと信じたい。
「それに、俺だってお前ほどじゃないが人を見る目はあるつもりだ。何が嘘で何が本当か、見ていれば分かる」
「文次郎……」
「お前の言葉は全て真実。そうだろ?」
 クシャリと頭を撫でる手は顔に似合わず優しい。固く骨ばっていてゴツゴツしている男らしいその手は、魔法を生み出すことは出来ないが、新一に優しい物を与えてくれる。
 もしかするとこれこそが、文次郎の魔法なのかもしれない。
 多くの人を楽しませるものではなく、新一を安心させる為の魔法だ。
「有り難う、文次郎」
「どう致しまして」
 永久に解けなければいい優しい魔法に、新一は綻ぶ様に笑った。


2015/02/17 pixiv
2015/02/26 加筆修正
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